第13話
週明けの検査の結果、林田真矢は拘束型心筋症だと判明した。
検査を終え、僕は資料をまとめる為にオフィスに戻った。
小山 るう:「目黒先生、お疲れ様でした」
僕のオフィスにノックをして入って来たのは、小山るうだった。
目黒 修:「お疲れ様、小山さん」
僕は微笑む。
小山るうは薄ピンクのトレーを持っていた。
小山 るう:「今日は暑いですから、アイス珈琲にしてみました」
僕のデスクに汗のかいた細長いガラス製のグラスを置いた。
その隣に、白い皿に乗ったチョコケーキも置いた。
小山 るう:「このチョコケーキ、とっても珈琲に合うんです」
小山るうの笑顔を見て自然と僕も笑顔になる。
小山 るう:「チョコケーキ、ビターなんで安心してくださいね」
含み笑いで言った小山るうは、一度頭を下げてオフィスから出て行った。
目黒 修:「栞が言ったのかな?」
一人になったオフィスでチョコケーキを食べながら言う。
鼻から抜けるチョコの香り。
やっぱりチョコはビターにかぎる。
グラスにも手を伸ばす。
冷たい珈琲が食道を一直線に流れ、渇いた喉を潤すのがわかった。
ケーキを食べながら、今後の林田真矢の治療法について考える。
拘束型心筋症とは心臓が硬くなって拡張力が低下して、血液が心臓に流れにくくなり、肺などに血液が滞って全身へ送られにくくなる、原因不明の恐ろしい病気なのだ。
治療法は薬物治療が中心。
だが効果が得られない場合、手術で切除したり、ペースメーカーを用いたり、心臓移植をしたりと、いくつか方法がある。
治療法が幾つもある場合は、患者に選択肢を与える。
医師としては、中心となっている薬物治療をすすめるが、切除と言うならその治療を行う。
僕はまとめた資料を持って、白い壁や床に覆われた林田真矢の病室を訪ねる。
まず検査結果を知らせなければならない。
林田真矢:「目黒先生、心臓が悪いんですか?」
林田真矢は深刻な表情で僕を見つめる。
目黒 修:「検査の結果、林田さんは拘束型心筋症だと判明しました」
僕は林田真矢の目を逸らさずに話を続けた。
病気の詳細を聞いている林田真矢は僕の目を見ているが、多分彼女の瞳に僕の顔は映っていないだろう。
それほど顔が青ざめ、気を失っている様にさえ見えた。
僕は病気の詳細や治療法をまとめた数枚のA4紙を差し出す。
林田真矢は震える手で資料を受け取った。
目黒 修:「安心して下さい。この病気には大きく分けて4つの治療法があります」
林田真矢:「じゃぁ私は助かるんですね!?」
林田真矢は泣きそうな顔で、僕を見つめた。
目黒 修:「大丈夫ですよ、僕に任せてください」
美しい顔を歪ませる林田真矢に、僕は優しく微笑んだ。
◇◇◇
午後の診察を終え、 栞との食事の約束をして帰宅した。
今夜は會澤小春を僕の作品にする予定だったが、立て続けに断る事になるので食事に行く事にしたのだ。
僕達の関係は秘密にしているので、僕より先に仕事を終えた栞は自宅に帰っていた。
運転席に乗り込んだ僕は「今から向かうよ」と連絡を入れてから、愛車を走らせた。
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