エピローグ❷
開けた扉に寄り掛かって優しく微笑む男を見て、貴方の体は震え出す。
下腹部がずんっと重くなり、背中に悪寒が走る。
???:「お腹、空いてますか?」
腕を組む男は貴方の言葉を無視して質問してきた。
貴方は最後に何を食べたか思い出せなかったが、空腹感は無かった。
例え空腹だったとしても、何も食べられる気がしない。
貴方は否定の意味で首を横に振った。
???:「そうですか。サンドウィッチを買ってきたんですが、不要だったみたいですね」
そういった男は手に何も持ってはいなかった。
どんなサンドウィッチかは知らないが、ズボンのポケットに入るはずがない。
???:「嘘じゃないですよ、上にあるんです」
貴方が視線でサンドウィッチを探しているのを見て、男は クスリと笑った。
貴方は男が 『上』と言ったので、窓が無いここは地下室なのだと予想した。
貴方:「貴方は……誰なの。ここはどこ?」
貴方は先ほど無視された質問を、もう一度男に聞いてみた。
???:「僕の名前を知ったところで、貴方はこの地下室から出られませんよ」
男は『地下室』と言った。
貴方の予想はどうやら当たっていたようだった。
貴方は目の前の男に拉致・監禁をされている。
その事実が貴方の心臓の鼓動を加速させる。
貴方:「ど、どうしてこんなこと……」
貴方はこの部屋で自分が何をされるのか想像して吐きそうになった。
きっと自分はこの男に無理やり犯され、乱暴を受け、最後は殺されてしまうのだ。
???:「貴方は選ばれたんです」
当たり前の事のように言っているが、貴方に男の言葉など理解できるはずもなかった。
貴方:「選ばれた……?なんで、私が」
???:「僕が貴方を選んだんです。理由は美しいからです」
やっぱり私は汚されてしまうんだ。
貴方は鼻の奥がつんと痛み、下唇を噛んで溢れそうな悲しみを必死に耐えた。
貴方は自分の容姿に自信があった。
周りにはいつも『綺麗だ』『可愛いね』と言われていた。
貴方はそんなありきたりな誉め言葉でも、嬉しいと感じていた。
だが『美しい』と最上級の誉め言葉をもらったのに、これほどまで喜びを感じないのは初めてだった。
貴方:「こ、こんなことして……きっと居なくなった私を探しに警察が来るわ。貴方は捕まるのよ」
貴方は関わった事の無い警察に大きな期待をして、男の顔色を窺った。
???:「一度僕を捕まえ損ねた警察なんか来ませんよ。凄腕の警察が居たら可能性はありますが、僕だって誘拐のプロですから。もう何度も女性をここに連れて来ています」
男は警察という言葉にもうろたえず、自信あり気に口角を上げた。
???:「貴方を誘拐するのだって簡単でしたよ? 薄暗い仕事の帰り道、貴方は悲鳴を上げる間も無く眠らされて、ここに連れて来られたんです」
貴方は母親の事を思い出した。
街灯が少ないから一人暮らしをするなら他の所へ引っ越せと口煩く言われていた。
お金が無かったわけではないが、仕事場からも近く、一人暮らしには少し広いマンションは住み心地も良くて、なにより貴方は引っ越し作業が面倒で母親の言葉を無視していた。
貴方は今になって母親の言う事は聞くべきだったと後悔する。
また鼻の奥がつんと痛んだ。
???:「貴方の名前を教えてください」
唐突な男の言葉に、貴方は首を横に振った。
名前も知らない女を拉致したとは思えなかったのだ。
???:「じゃぁ貴方が知りたがってた僕の名前を教えてあげます」
男は腕を組みながら、目に掛かった前髪を左手で払った。
貴方:「ぁ……」
貴方は見逃さなかった。
男が前髪を払った左手の薬指には指輪が光っていた。
シンプルでありきたりなデザインだが、貴方には見覚えがあった。
それは貴方が働くジュエリーショップの指輪だった。
※次回更新は2022.12.25の18:00です。
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