第7話
ある日、出勤前に病院から電話がかかってきた。
歯を磨いていた僕は大急ぎで支度を済ませ病院へ向かう。
愛車のアクセルを踏み込み、いつもより早く病院に着いた。
走って病院に飛び込んだ僕を待っていたのは栞だった。
内田 栞:「あっ、目黒先生!!」
周りには他の看護婦たちが居た。
目黒 修:「大橋美鈴さんが居なくなったって本当ですか!?」
息を切らした僕は、焦りながら状況を確認する。
内田 栞:「昨夜は確かにベッドに寝ていたんですけど……早朝、 病院に大橋さんから電話があったんです」
抱きつきそうな勢いで駆け寄って来た栞は、今にも泣きだしてしまいそうだった。
目黒 修:「何て、言っていましたか?」
栞を落ち着かせるように、優しい口調に変える。
内田 栞:「そ、それがですね……ベッドにお金が置いてあって、もう退院したいから探さないでくれって言われたんです」
目黒 修:「わかった。とりあえず僕は大橋さんに連絡してみます」
僕は階段を駆け上がりオフィスへと向かった。
勢い良く扉を開け、閉めるのも忘れてデスクの隅に置いてある電話に手を伸ばす。
受話器を握り、大橋美鈴の書類を見ながら自宅の番号を打つ。
廊下から栞が心配した顔で此方を見ているのが視界に入る。
目黒 修:「もしもし、大橋美鈴さんですね?……検査もしてないのに退院はまだ、えっ?……いや、このままうちで治療を続けて……だからっ……でも……はい、はい……判りました」
僕は受話器を静かに戻した。
受話器が戻ったのを確認してから栞がオフィスに入ってきた。
内田 栞:「……やっぱり帰ってこないって?」
不安気な栞は僕の手をそっと握る。
目黒 修:「うん、もう大丈夫だからって言われちゃったよ。僕が早めに退院できるかもって期待させちゃったのがいけなかったのかな……」
僕は首を横に振り、見回りに行った時の自分の発言を悔やんだ。
内田 栞:「……急にどうしちゃったんだろう?」
目黒 修:「……わかんない」
僕は栞の手を握り返す。
まだ退院できるかどうかの検査をしていなかったのに、大橋美鈴は何が不満で病院を飛び出したのだろう。
退院を待ちきれない特別な理由でもあったのだろうか……。
◇◇◇
大橋美鈴の件で緊急会議が行われ、僕は頭を抱えて悩んでいた。
病院の出入り口に設置された防犯カメラの映像には、まとめた荷物を持って出て行く大橋美鈴が映っていた。
その結果、家族には連絡するが大橋美鈴の意思を尊重するとして話がまとまった。
一体何処へ行ったのだろう。
僕の地下室に招待する予定だったのに誰かに奪われてしまったような気がして、悔やんでいるとそれ以上に心を抉られてしまう連絡が病院に入った。
――大橋美鈴が遺体で発見された、という警察からの連絡だった。
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