第3話
午後の手術も終わり、オフィスの壁掛け時計を見上げると時刻は既に20時を回っていた。
早く帰って森岡静菜に食事を与えないと、美しい体から肉が無くなってしまう。
今の体型がベストなのだ。
僕は急いで帰り支度をしていると、ノックも無くオフィスの扉が開いた。
バッグに資料やノートパソコンをしまいながら、栞が来たのだと理解する。
顔を上げると、栞は白衣ではなく私服姿だった。
淡いピンク色のワンピースから突き出た細い腕や脚が美しい曲線を描いている。
柔らかな肌に触れたいと思ったが、栞を誘っているような態度になってしまうので、伸ばそうとした手でバッグのファスナーを閉めた。
内田 栞:「ねぇ、修」
窓際のデスクで帰り支度をしている僕の傍に歩み寄った栞からは、香水ではなく清潔感のあるシャンプーの匂いがした。
一緒に帰れると思って嬉しそうな顔をしている栞に、僕は申し訳ない気持ちになった。
栞が仕事終わりに僕のオフィスに顔を出した理由は予想がつくからだ。
内田 栞:「もう帰れる?」
目黒 修:「あぁ、そうだよ」
内田 栞:「今日、久々にご飯行こう?」
「やっぱりな」と内心思った。
僕は栞の誘いを断るのが苦手だった。
NOと言えないのではく、断った時の残念そうな栞の顔を見るのが苦手だからだ。
でも今日は早く帰らなければならない。
目黒 修:「悪い、今日は大学病院の
栞の様子を窺う。
内田 栞:「ビジネスで?」
栞は首を傾げた。
目黒 修:「お互いの病院とは関係ないよ。プライベート」
もちろん食事に行くなど嘘である。
内田 栞:「そっか、佐渡山先生と先約があるなら仕方ないか。じゃぁ来週は私とご飯ね」
ふてくされながらも了解してくれた。
僕は栞の腕を掴んで引き寄せ、ご機嫌取りのつもりで唇を軽く合わせた。
栞は照れたように笑い、今度は唇を押し付けるようにキスをした。
内田 栞:「それじゃあ佐渡山先生によろしくね。行ってらっしゃい」
栞は急いでいる僕に気を遣ってオフィスを出て行った。
地下室に居る森岡静菜を、もう少し動く状態で保管しておきたかったが、残念ながら今日中に作品に仕上げなければならないようだ。
僕はオフィスを出て、愛車に乗り込み、アクセルを踏み込んだ。
◇◇◇
家に着いて急いで地下に下りると、四方を硝子で囲まれた部屋で森岡静菜は歩き回っていた。
僕は硝子張りの部屋に入る。
森岡静菜:「いつまでここに閉じ込めているつもり?」
森岡静菜は腰に手を当て上からものを言う。
目黒 修:「もう少しでここから出してあげます」
僕は優しく微笑む。
森岡静菜:「本当……?」
森岡静菜は警戒の表情を浮かべる。
僕は一歩、近付く。
森岡静菜は一歩後ろに下がる。
僕はまた一歩、近付く。
森岡静菜は鎖が足首に絡まり尻餅をついた。
森岡静菜:「いやっ!! 来ないでッ!」
恐怖で顔が歪んだ森岡静菜を強引にうつ伏せにし、親指同士を結束バンドで縛り付ける。
そして騒ぐ森岡静菜を仰向けにすると、今度はフェイスタオルを首に巻き付けた。
森岡静菜:「嫌ッ!!」
森岡静菜は反射的に悲鳴を上げるが、僕が全体重を掛けて首を絞めると彼女の口から「言葉」は出てこなくなった。
目黒 修:「何も心配することはありません。貴方のその美しさは永遠にこの世に在り続けますから」
優しく笑いかけると、何の抵抗もできない森岡静菜は涙を流しながら僕を睨みつけた。
森岡静菜:「うぐぇ……ぅ、くっ……」
ロープのような細い紐ではないので呼吸を止めるのにかなりの力が必要になるが、何度も回数を重ねていくことで僕はこの作業のプロになっていた。
力を緩めず首を絞め続けると、僕の手首に爪を突き立てていた森岡静菜の動きが止まった。
ゆっくりと首を絞めていたフェイスタオルから手を離すと、支えを失った森岡静菜の首がぐらりと左を向く。
目黒 修:「ふぅ……今回も順調だな」
爪を突き立てられていた手首は
フェイスタオルを解くと首は赤くなっていたが、内出血などは見られなかった。
フェイスタオルのような太いもので首を絞めると、その後が残りにくいのだ。
僕はなるべく女性の体に傷を付けたくないので、この方法を選んでいる。
首を絞めていたフェイスタオルで最期の涙を拭い、ハサミで結束バンドを切断する。
結束バンドで動きを封じたのは、フェイスタオルを外そうと皮膚を引っ掻いてしまわないようにするためである。
そのおかげで森岡静菜の体には生傷が無かった。
僕は動かなくなった森岡静菜を満足気に見下ろし、次の作業のために森岡静菜を硝子部屋の外に運び出した。
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