第2話
本日第一回目の手術の相手は『拡張型心筋症』である。
まず病気の説明の前に、心臓について少し説明しておこう。
心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしている。
人の心臓は二対の心房・心室、つまり右心房、左心房、右心室、左心室から成る。
それぞれの壁は、心房よりも心室が、同じ心室でも左心室の方が厚い。
『拡張型心筋症』は心筋の細胞の性質が変わり、とくに左心室の壁が薄く伸び、心臓内部の空間が大きくなる病気。
つまり収縮機能が低下し、大きくなった心臓が元のサイズに戻りにくくなるという事だ。
それにより心臓はポンプ機能が果たせなくなり、血液の循環が悪くなるのだ。
手術方法としては、心臓移植、体外型・植込み型人工心臓の取り付け、余分な心筋を除去し縫い合わせて心臓を小さくするバチスタ手術(左室形成手術)など様々だ。
人工心臓の体外型は、心臓の代わりをするポンプが体の外にありそれが大きな駆動装置と繋がっている状態で、長期の使用は可能だが退院する事は出来ず少しの距離も動くことは困難になってしまう。
植込み型は、心臓の代わりをするポンプが体の内側にあり、小さな駆動装置はベルトで腰に固定が可能で、自宅での生活が出来るようになる。
今回の手術は植込み型人工心臓の取り付けを行う。
この手術は心臓の大動脈と左心室に穴を開け、人口心臓に繋がるクダ、血流管を繋げる。
心臓の何処に穴を開けるかがポイントだ。
手術に時間がかかると、それだけ患者に大きな障害を与えてしまう。
僕の手術スピードでリスクを解除しなければならない。
僕は手術に自信がある。
目黒 修:「ふぅ……」
患者のカルテを再確認して準備の為に会議室を出る。
準備室で青い手術着に身を包み、専用の石鹸で腕まで消毒する。
今回の手術メンバーは執刀医の僕と介助医、麻酔科医、そして櫻井舞とその他の看護師。
介助医たちと手術の手順を再確認する。
一つのミスも許されない。
だが僕は軽い足取りで手術室に入った。
ここでは僕が中心となって手術を行う。
僕の言う事に逆らう者は居ない。
今回の患者は
この拡張型心筋症は40~50歳代に多く、中高年では男性に多い病気。
女性が25歳でこの病に侵されるのは珍しい。
目黒 修:「器具の準備は大丈夫ですか?」
櫻井 舞:「はい、大丈夫です」
櫻井舞が答える。
患者に全身麻酔がかかったのを確認する。
目黒 修:「それではオペを始めます」
僕の言葉を合図に手術は始まった。
患者の胸部を茶色い消毒液で消毒する。
目黒 修:「メス」
素早く櫻井舞がメスを手渡す。
僕は患者の胸の中心にメスを縦に入れた。
患者の茶色くなった肌に白い線が浮かび上がり、やがてそれは一筋の赤い線に変わる。
切開した所を開創器という器具で押し広げた。
すると筋肉に包まれた肋骨が露になる。
今度は肋骨も開創器で押し広げ、ようやく山野南の心臓が露わになった。
ドク……ドクン……ドク……ドクン……。
全身に血液を送り続けているポンプはとても弱々しかった。
早く人工心臓を取り付けなければ止まってしまう。
僕は山野南の心臓に手を添えた。
ゴム手袋越しでも、左心の壁が薄くなっているのが分かった。
ペラペラな心臓が僕に助けを求めている。
僕は必死に動き続ける心臓の大動脈部分にメスで穴を開けた。
同じく 左心室にも穴を開ける。
そしてその穴に人工心臓に繋がる血流管を慎重に合体させる。
人工心臓を起動する。
手術室に緊張が走る。
……ドクン……ドクンドクン……。
人工心臓は 作動した。
これで人工心臓は山野南の体の一部となり、しっかりと体内に血液を送り込んでいる。
1時間45分の手術は成功した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます