第22話
地下室に下りるとガラスの向こうで、小山るうが右足首に付いた鎖を取ろうと力尽くで引っ張っているのが見えた。
目黒 修:「そんなことしても外れませんよ」
扉を開けながら華奢な背中に向かって言った。
小山 るう:「目黒先生……」
振り返った小山るうの顔は怒り、憎み、恨み、悲しみ、戸惑い、恐怖が入り混じっていた。
小山 るう:「何でこんなこと……」
小山るうは鎖から手を離し、立ち上がった。
胸に手を当てて、一歩後ろに下がった。
目黒 修:「それは貴方が 美しいからです」
僕は当たり前のように、さらりと言い放つ。
小山るうがここに居る理由は美しいから。
ただそれだけだった。
小山 るう:「……どこが、ですか?」
意外な質問だった。
というより、質問された事に驚いた。
僕の動機を理解しようとでも思っているのだろうか?
目黒 修:「全部です」
細かい事を教えても意味は無い。
小山 るう:「んふふ……」
答えを聞いた小山るうは不敵に笑った。
小山 るう:「嬉しいです。先生がそんな風に私の事を見てくださってたなんて」
まるで恋人にするかように、歩み寄った小山るうは僕に抱きついてきた。
小山 るう:「私、先生の事好きだったんですよ? 知ってました?」
耳元で甘く囁き、僕の胸に頬を擦り付ける。
誘うように僕の背中を撫でた小山るうは僕を見上げた。
色っぽく微笑むと背伸びをして、僕の唇に形のいい薄い唇を合わせた。
そして、ぬるりとした舌が僕の口の中に侵入し、歯列をなぞって僕の舌を捉えた。
動かさない僕の舌に、必死に絡み付いてきて、淫らな吐息をもらす。
美しいのは外見だけ……か。
完全に女を武器とする裏の小山るうだ。
おそらくこのまま性行為を求めて来るのだろう。
そして邪魔になる鎖を外した隙に逃げるつもりなんだ。
そんな単純な手で僕を騙せるわけがない。
第一、僕は栞しか抱かない。
僕は抱き付く小山るうの背中に腕を回さないし、キスの最中に目を瞑らないし、舌を絡めたりしない。
小山るうはそんな僕の体を触り始めた。
髪、頬、腕、胸、腰、そして遂に体中を這う手が僕の全く反応していない股間に触れた。
瞬間、僕は小山るうの手首を掴んだ。
頑張っている小山るうを泳がせてみたが、もう我慢の限界だった。
目黒 修:「抱きませんよ」
体中を弄られ、吐き気さえしていた。
小山 るう:「私、本気ですよ?」
僕の首に細い腕を回し、可愛らしく上目遣いで首を傾げる。
目黒 修:「嘘は駄目です」
僕の言葉を聞いた瞬間、眉をぐっと寄せ、僕から離れて舌打ちをした。
小山 るう:「マジなんなん!? 監禁してセックスしたかったんじゃないの!?」
病院で見る綺麗な小山るうからは想像しがたい言葉遣いだ。
目黒 修:「僕が欲しいのは、貴方の美しい体です」
それだけ言うと僕は背を向け扉を開ける。
言葉遣いが悪いのは非常に残念だが、重要なのは美を纏った体だけだ。
コレクションになったら口を開く事は無いのだから、内面の美しさは求めていない。
小山 るう:「はぁ!? 意味わかんねーんだよっ!!」
扉を閉める直前まで小山るうの怒鳴り声が聞こえた。
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