第32話 おまけ 


『なんだか先生は』


その言葉の続きはナースが乱入してきて言えなかった。


真白 みゆき:「あの先生、女の人がたくさん憑いてたね」


みゆきは眉を寄せて、僕の隣を歩くように浮いている。


火茂瀬 真斗:「憑かれやすい体質ってのもあるからなぁ……」


小山るうのロッカーから発見した空パケを見つめながら、頭を掻く。


確かに、みゆきの言う通り、先生の背中には 美人な女の霊が重なり合うほど憑いていた。


霊の姿は 無傷で、殺した様な形跡は見当たらない。


霊は死んだ瞬間の姿のまま、人に憑いたり地縛霊としてこの世に姿を現している。


もし首を切り裂いて殺されていたら、霊の姿も首が切り裂かれた状態になる。


首を絞められて殺されていたら、霊の首には加害者の手の跡が必ず残る。


つまり先生の背中に憑いている霊は全て無傷で、 殺されたようには見えなかったのだ。


ただ、あれだけの数が憑いているのは異常だ。


殺していないのだとしたら、心霊スポットに行きまくっているからか?


それともここが病院だから病死した霊が憑いてしまっているのか?


正直、病院という 『人間が生死を彷徨い死者が生まれる場所』は空気が良くない。

重く、苦しい。


苦しんで亡くなった人間は悪霊になりやすく、病院は悪霊が集まりやすい。


電話ですら 霊の声が聞こえて、会話の邪魔をしてくる。


火茂瀬 真斗:「わっかんねなぁ~……」


もしかしたら既に殺しているのかもしれないと思ったが、女の幽霊が憑いているからといって殺人犯とは断定できないし、証拠が無ければ俺以外の人間は先生を殺人犯だとは認めない。


俺にとっての決定的な証拠になる小山るうの霊は憑いていないので、証言通り酔った小山るうを車に乗せただけなのかもしれないし、単純に小山るうが憑いていないだけなのかもしれない。


だが俺の霊感を仕事で使うつもりも公表するつもりもないので、『霊が憑いていた』という見えない情報は証拠にはならない。


小山るうが薬物売買をしていた証拠が見つかったので、薬物に関するトラブルに巻き込まれた可能性があるとして捜査が進み、先生は容疑者から外されるだろう。


火茂瀬 真斗:「なんだか先生は……俺と同じニオイがすると思うんだけどなぁ」


俺と同じ、血の臭いがする。


人間の血で汚れた、殺人鬼の臭い。


ただ職業柄、先生は人間の体を切り裂いて、両手を血に染めている。


未熟な俺は先生から感じ取った臭いが前者なのか後者なのか、判断が出来ないでいる。


自分の足で捜査して犯人を追い込んだ事が無い俺は、証拠を落とさない先生を捕まえる事は出来そうになかった。


俺はいつも殺された女と夢の中で落ち合い、復讐をしてくれと頼まれ、教えてもらった犯人を執行人のコピーキャットとして、梓さんの助手として殺していた。


だから警察として、まともに働いた事は無かった。


火茂瀬 真斗:「梓さんなら、ちゃんと捜査して捕まえる事も出来るんだろうなぁ」


亡き相棒を思い浮かべて、自分の警察としての無力さに苦笑いをした。


※別作品【ブラッディ トゥ ナイト】のクロスオーバー。

いずれカクヨムにも移植予定です。

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