第20話


午後になり、林田真矢の検査が行われた。


薬物治療を行ってから既に4日が経っている。


もう息苦しさや息切れなどの症状が和らいでもいい頃なのだが、全くと言っていい程効果が得られない。


思っていたより進行していたのか、薬物治療では心臓を蝕む病を止めることが出来なかったようだ。


林田真矢:「助かる方法はまだありますよね?」


検査を終え、ベッドで横になっている林田真矢は、僕の白衣の袖を掴みながら言った。


入院している間に長い髪に白髪が混じり、頬の肉が少し垂れてしまった気がする。


37歳の林田真矢は死ぬには若く、まだ成人を迎えていない息子がいる。


目黒 修:「はい。僕が必ず林田さんを助けます」


林田真矢の目をしっかり見て、医師として、その衰えが見え始めた美しい体に宿った命を助ける事を誓った。


◇◇◇


この日の夜、会議が開かれた。


検査の結果、予想以上に進行が早い為、早急に手術を行う必要があると判断された。


僕は手術に自信はあるのだが、問題点が1つだけあった。


手術室看護師として櫻井舞が僕の手元になるのだ。


僕は平然としていられるが、櫻井舞の手元が狂わないか心配だった。


目黒 修:「少し気まずいかも、なぁ……」


僕以外誰もいない広いオフィスに、独り言が吸い込まれていく。


気まずかろうが、仕事だ。


こればかりは仕方がない。


もし僕に栞の存在が居なければ、櫻井舞の告白を受け入れていたかもしれない。


でも現実は 栞という愛する存在が隣にいるのだ。


僕は栞の目力が強く 堂々とした美しさ、キリッとした性格のたまに見せる可愛らしい表

情のギャップに惹かれ、僕から告白をした。


最初はコレクションにしようと栞の美しさを目で追っていたのだが、次第に「誰にもワタシたくはない」という感情が芽生え、女性として見ている事に気が付いたのだ。


栞以外を女性として見ていない僕の答えなど、あえて言う必要もないが勿論 『NO』だ。


ただその答えはこの 先の事を含め、いつ伝えるべきか悩む。


僕にとってその答えを口にする時、 有利にならなければ意味がない。


数日前の『告白の返事』は地下室へ招待する時の口実に使いたいのだ。


返事をする前なら、何の迷いも無く返事を貰う為に家に来るだろう。


だが、返事をした後では、家に呼んでも来ないかもしれない。


失恋から立ち直るために僕と距離を取るだろうし、最悪の場合、他の病院に移動するだろう。


それでは二度と地下室へ招待するチャンスは訪れないだろう。


最高のタイミングで櫻井舞を手に入れるのだ。


そのために僕はまだ 返事をしてはいけなかった。


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