第17話
コレクション室に可能な限り美しい作品を並べたいと目標ができた僕は、今日は一日中、病院内の美女たちを観察していた。
そしてようやく決まった次のターゲットは櫻井舞だった。
いつも僕の手元として働いている姿。
手術の時の真剣な眼差し。
コーヒーを持って来てくれた時の笑顔。
ナース服から露出する滑らかな曲線を描く脚。
改めて思う……美しい。
今まで近すぎる立場の人間は避けていたが、気が変わった。
9体目として地下室に招待するのはいつが良いだろうか。
???:「何ニヤニヤしてんだよ」
廊下を歩いていると後ろから顔を覗かれ、頭を軽く叩かれた。
目黒 修:「痛ッ……やっぱお前か」
僕を叩いた人物は、同僚の
大川 大輔:「舞ちゃんに告られたのかぁ?」
ヒューヒューと僕をからかう。
短い黒髪で見た目は爽やかなのだが、そのマスクの内側は女タラシな男である。
目黒 修:「何で櫻井さんなんだよ?」
右腕を突っつく大川大輔の肘を押し返し、首を傾げる。
大川 大輔:「舞ちゃんは修のこと好きみたいじゃん? 」
目黒 修:「え?」
大川 大輔:「気づかなかったわけ……? あれだけ甲斐甲斐しく世話してもらってんのに?」
栞しか眼中にない僕には櫻井舞の好意に気付きもしなかった。
ならばそれを利用する手はない。
大川 大輔:「彼女いないんだから付き合っちゃえば?」
僕には栞がいますから、ご心配無く。
その言葉は喉まで来て、来た道を戻って行った。
大川大輔と別れ、オフィスに向かいながら櫻井舞をどうやって手に入れるか計画を練り始めた。
◇◇◇
家に帰って硝子部屋を掃除しながらも櫻井舞の事を考えてる。
本当に櫻井舞が僕に好意を抱いているのなら誘い出すのは簡単な事だ。
チャンスさえあれば直ぐにでもこの地下室に招待できる。
目黒修:「ふぅ……」
僕は額にかいた汗を拭う。
喉が渇いた僕は一階に上がり、キッチンにある大きな冷蔵庫を開ける。
目黒 修:「あぁ……残念」
刺激の強い炭酸が飲みたい気分だったのだが、常備している炭酸飲料を切らしていた。
いつもは定期便で届くので切らすことはないのだが、栞が来た時に少々飲みすぎてしまったようだ。
目黒修:「仕方ない、買いに行くか」
掃除に気合を入れすぎて時刻は日にちを変えていた。
この時間では近くのスーパーは閉まっているので、買い物に行けるのはコンビニだけだった。
僕はコップ一杯の水を飲んでから車に乗り込んだ。
◇◇◇
夜の風は、汗をかいた体に心地良い。
駐車場のある コンビニに入り、フライヤーで何かを揚げている匂いが漂う店内を歩く。
店内の奥にあるペットボトルのコーナーの前で、ずらりと並ぶ炭酸飲料を眺めた。
赤いラベルの炭酸飲料やカロリーオフの炭酸飲料、お酒を割る為の炭酸水や期間限定の炭酸飲料など種類が沢山あり、中にはキーホルダーがおまけで付いてくる炭酸飲料もあった。
僕は最初に掃除をしていた時から飲みたいと思っていた 黒い炭酸飲料を手に取り、少し悩んで緑色のラベルの炭酸飲料とプライベートブランドの炭酸飲料をカゴに入れ、自動レジに千円札を投入して会計を済ませた。
美人店員のマスクの下を想像しながら、黒い炭酸はコンビニを出てから直ぐに飲み干した。
マスクの下も美人なら招待しても良いな、と思いながら残り2本の炭酸飲料が入ったビニール袋を持って車に乗り込む。
帰り道、路上の隅に だらしなく座り込む女を見つけた。
近付くにつれて、それは 小山るうだと判った。
どうやら 酔っているようだ。
車の速度を落とし、小山るうの前で停止する。
目黒 修:「小山さん。こんな所に座ってちゃ危ないですよ」
体のラインが浮き出る丈の短いタイトスカートから突き出る二本の脚は無駄な脂肪が無く、とても美しかった。
僕の声に顔を上げる。
小山 るう:「へ?……ッ……ったぃ……」
そう言うと頭を抱えて再び下を向いてしまった。
目黒 修:「小山さん?大丈夫ですか?」
その声に反応し、呻き声とともに顔を上げた。
小山 るう:「……先生?」
目黒 修:「そうです。目黒です」
自己紹介すると、小山るうは恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
小山 るう:「もぉ、やだ……こんな所見られちゃった……」
僕はチャンスだと思った。
目黒 修:「どうです? 酔いが醒めるまで、僕の家で休んで行きませんか?」
小山 るう:「ほんとですかぁ? ん~……じゃぁお言葉に甘えちゃいまぁす」
小山るうは僕の車に手を付いて立ち上がると、ふらついた足で助手席に乗り込んだ。
今度、洗車しないとな。
小山 るう:「先生にお持ち帰りされちゃった……」
聞こえないふりをして僕はアクセルを踏み、高鳴る鼓動を抑えながら自宅へと車を走らせた。
僕の頭の中は急な計画変更だったが混乱なんてしていない。
ただターゲットが櫻井舞から小山るうに変わっただけだからだ。
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