第12話
コレクションを眺めているうちに、シャンパンの ボトルは空になっていた。
華奢なグラスの底に残った僅かな黄金の液体を口に流し込む。
炭酸がシュワシュワと喉をくすぐった。
空になったボトルと華奢なグラスを器用に片手で持ち、空いた方の手で第二コレクション部屋の電気を消す。
L字型の取っ手に手を掛け、僕は真っ暗になった展示室から出た。
地上に続く階段に向かう途中、硝子部屋を横目で窺う。
會澤小春と目が合った。
彼女は白い床に置かれた食事を指差して、 何かを訴えている。
僕は歩き出し、硝子部屋の扉を開けた。
目黒 修:「どうかしました?」
部屋を覗く様に扉の隙間から顔だけ出した。
會澤小春:「温かいご飯が食べたいの」
確かにこの食事は冷め切っていて、食べられるが美味しくはないだろう。
目黒 修:「わかりました。直ぐに持ってきますね」
僕は微笑むと、床に置いてある食事のトレーを持って地下室を出た。
頭の中で献立を考えながら階段を一段一段上がって行く。
◇◇◇
急いで會澤小春の食事を作り、地下室に運んだ。
これが彼女の最後の食事になるだろう。
消化の都合もあり、明後日に僕の作品にすることにした。
もう少しで22時になる。
日曜日の夜は特別な予定が無い限り栞が家に来る事になっている。
一泊して月曜日の午後に帰るのが僕等の決まりであった。
玄関のチャイムが鳴り、栞が来たことを知らせる。
目黒 修:「お疲れ様」
仕事帰りの栞を笑顔で迎え入れる。
栞は手に持っていた紙袋を差し出す。
内田 栞:「舞ちゃんが美味しいって教えてくれたの」
紙袋の中には赤ワインと白ワインが一本ずつ入っていた。
栞はバルコニーを向いたソファーに腰掛ける。
ワイングラスと、チーズとローストビーフを盛った皿を持って僕は栞の隣に腰を下ろした。
内田 栞:「ここの眺め大好きなのよね」
赤ワインが注がれたグラスを傾けながら言う。
目黒 修:「毎週のように眺めてるのに飽きない?」
内田 栞:「飽きないわ、とっても綺麗だもの」
チーズを手に取り呟く。
目黒 修:「それは良かった」
栞が言うように、ここから眺める 夜空はキラキラと輝く星々と堂々と浮かぶ満月が美しさを放っていた。
バルコニーの窓が額縁になり、一枚の写真の様に景色が納まっているので、夜景だけでなく夕暮れや早朝など絵になる瞬間は何度もある。
僕達は肩を寄せ合って夜景を眺めながら、他愛も無い会話を繰り返した。
栞が持ってきてくれた2本のワインが空になったのを合図に、僕等は別々にシャワーを浴び、同じベッドに横になる。
寝室の電気は消しているがカーテンを開けているので、僕の下に横たわる栞の顔が月明かりに照らされてよく見えた。
手のひらに吸い付くような栞の肌。
指先で触れれば、艶めかしいソプラノ声が寝室に響く。
目黒 修:「……綺麗だよ」
耳元で甘く囁やけば、栞は僕を締め付ける。
唇を重ね、互いの存在を確かめ合う様に深い口づけを交わす。
乱れた呼吸を繰り返しながら唇を離すと、再び栞の喘ぎ声が溢れ出し、僕の鼓膜を刺激した。
僕が動く度に栞の、柔らかな白い果実が上下に揺れる眺めは最高だ。
快楽の海に沈む僕は、その中で見つけた白い一筋の光に向かって泳ぎ続けた。
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