第14話


既に栞はマンションを出て、外で待っていた。


栞は慣れた手付きでドアを開けて助手席に乗り込んだ。


内田 栞:「遅かったわね」


目黒 修:「渋滞しててさ」


俺は苦笑いをする。


内田 栞:「何もなくて良かったわ」


栞は子供の頭を撫でるように僕の太ももを優しく撫でた。


内田 栞:「今日は美味しいお店見つけたから案内するね」


笑顔でそう言うと、栞は自分のスマホを見ながらナビに住所を打ち込んだ。


目黒 修:「ナビがね」


内田 栞:「当たり前でしょ」


目黒 修:「何料理屋?」


内田 栞:「タイ料理よ」


栞は嬉しそうに目を輝かせて言う。


よほどその店の料理が美味しいんだろう。


ナビの案内に従って愛車を走らせていると、派手な看板を見つけて栞が指さした。


内田 栞:「あのお店よ」


『アロイ マーク』と書かれた赤・白・青・白・赤のボーダー柄の看板が派手で目立っていた。


行列が店の外まで出来ていたが、栞が予約をしてくれていたので、待つ事無く席に案内される。


目黒 修:「すごい人気みたいだな」


僕は明るい店内を見回し、満席状態を見て驚く。


内田 栞:「私は前から知ってたんだけど、この前テレビで紹介されたみたいでね。すごい人気出ちゃって予約しないと一時間待ちは当たり前になっちゃったの」


料理の写真が並ぶメニュー表を眺めながら、得意気に笑う。


目黒 修:「オススメは?」


栞が持つメニュー表を覗き込む。


内田 栞:「どれも美味しいんだけど、トムヤムクンと生春巻きと……定番のガパオライスと、あとカノムジーン」


よく聞く名前の最後に、全く知らない暗号の様な料理名が入っていた。


目黒 修:「カノムジーン? なにそれ?」


内田 栞:「これよ、結構美味しいし、修も好きだと思うわ」


栞は僕にメニュー表を差し出し、一つの写真を指さした。


『カノムジーン』と書かれた料理の写真は、白くて細い麺と野菜やハーブ、それに4種類の小皿に盛られたカレーが写っていた。


バターチキンカレーやグリーンカレー、あとは見慣れた色のカレーが並んでいた。


目黒 修:「つけ麺みたいな感じなんだ。なんか、そーめんとタイカレーがあれば家でもできそうだね」


内田 栞:「確かに! 今度家でやってみるわ」


頼む料理は全て栞に任せ、運ばれてきたタイ料理を堪能した。


料理はどれも栞の言っていた通り、美味しかった。


栞との次のデートの約束をし、家まで送り届け、僕は帰宅した。


リビングの時計に目をやると、もうすぐ日付が変わりそうだった。


今からエンバーミングは骨が折れそうなので、止めておこう。


熱い湯に浸かり、体が冷えないうちに布団に潜り込んだ。


そして會澤小春をコレクションにした祝い酒は何にしようか考えながら、深い眠りについた。

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