8-1 星の中心

緋翠がルーダーと会っていた頃、都市部隊のリーダー火是かぜ葵竜きろう彗祥すいしょうを追い、「星の中心へと向かっていた。

かつてはこの星で一番高いと言われる塔台の頂上‥‥花のように輝くオブジェとして彩られたスタルオの天井は何者かが撃ってからはひび割れてしまっている。

しかしその光彩は《スタルオ》にまで届くと、それをきっかけに「星の中心」への扉は開かれたのだ。


火是はその場所から一本の光のエレベーターに包まれ上へ、更にそのまた上へと進みながら‥‥赤茶色の髪と熱の様な眼を、ある一念で燃えたぎらせる。


彼は自分が見た、囚われた挙句無残に討ち殺された仲間達。その内の一人が果てる寸前で言った言葉‥‥それがデマなのか、どうか確かめる為に向かっている。

葵竜と彗祥が‥‥俺たちを裏切る筈が無いであろう。しかも、場所へ向かうなどと‥‥。

しかし、もし本当ならば‥‥一体何故‥‥‥?


頭の中を駆け巡る様々な考えに交錯し、懊悩しながら‥‥やがて彼は、星の中心スタルオへと辿り着いた。


火是はその扉を開いた途端、一気に差し込んだ光に全身を包まれ思わず目が眩む。


「うっ!!」


片腕に取り付けられた装甲アーマード榴弾砲ハウザーを構え一歩踏み入れると、眩しさと共に熱い陽光を受けた火是は一瞬立ち尽くし、空を見上げるように呟いた。


「ここが、「星の中心」か!?」


━━「星の中心」と呼ばれる《スタルオ》のある場所へと辿り着き、その地に降り立った火是は段々と光の強さに馴れるとこの世界を見渡した。

足元から広がる一面のスペースは鉄と機械の導線に囲まれた壁となっているが、真下を見下ろせばそこは塔台の真上の部分となっていて、そのスペースがその場所の唯一の足場となっている。

そしてその奥に浮かぶ秘石、

まるでこの星グリーム全てを表すような、全てが唯物化したその世界のすぐ手が届きそうな場所に、この星を輝かす「力」が‥‥。

《スタルオ》と呼ばれる見たこともない輝きの巨石の球が、まるで全てがそこから始まるように、光のエネルギーを放ち浮遊している。


━━そう思う間も無く、火是は目を見開いた。


「お前は!!」


その《スタルオ》の真下に葵竜は立っていたのだ。


「葵竜!!」


信じたくはなかったがやはり居た。火是は、目の前にいる葵竜の姿に思わず愕然とする。

燈台からの長い光の道は葵竜が扉を開け、既にここに来ていたのだった。



葵竜は頭上の《スタルオ》を見上げていた。

金色にさらされる髪だけは僅かに揺れていたが、その姿はいつもと違うようだ。

その静かな横顔は表情は解らないが‥‥その向こうには彗祥が居る。


壁にもたれたまま動かない彗祥は、優しい表情で目を閉じ、銀色の長い髪だけが揺れ、まるで今までと何も変わらないように眠っている。

━━そんな彼女を見ながら、火是は葵竜に尋ねる。


「葵竜、彗祥は‥‥」


「彗祥は、中だ」


葵竜は視線も変えず、真上を見続けながらそう答える。

火是もその視線の先を向いたが、それは依然として彼が見続けている《スタルオ》だった。


「‥‥スタルオの?」


意味が解らずにそう言ったが、葵竜はゆっくりと火是の方を向いた。


「彗祥の心は死のうとしていた。だから、それが消える前に魂をあの中に入れた」


火是は振り向いたその顔に一瞬驚いた。だが、依然として彼の言葉が理解できず、冷静に聞いてみる。


「何を言っているんだ?心を中に入れるなどと出来る訳が無いだろう」


なら出来る。《スタルオ》によって彗祥の精神はこの星の全てと同じ力を持ち、代わりに全てを失ってしまったから。‥‥だから、せめてもの救いに俺は彼女をで眠らせた。

‥‥彗祥はもう戻れない。彗祥はもはや、夢の中でしか生きられなくなったのだ」


そう言いながら火是に目を向けている葵竜の澄んだ眼は依然と変わらない筈であったが、どこか暗い影のような光を放ち、冷たい表情をしている。


「お前は‥‥別人と化した彗祥を永遠に眠らせるつもりか」


そう呟くと、火是はふつふつと湧き起こる感情を目の色に燃え上がらせながら━━葵竜に言い放った。


「だめだ。だったらなおさら彗祥を生かす事は出来ない」


足の膝を軸に片手で榴弾砲ハウザーを掲げた火是は怒りをあらわに葵竜を睨みつける。


彗祥が眼が覚めた時、どうするつもりだ?

このまま眠り続けても、眼が覚めても、もはや彗祥は彗祥ではない。‥‥そいつが仲間を殺したのが本当なら、俺たちの仇だ!」


決死の形相で叫ぶ火是だが、実際、何故こうなったのかは彼自身にも解らなかったのだ。

今まで異凶徒と戦う都市部隊のリーダーとして力だけで生きてきた無頼の男は、その中に入り込んだ優しい澄んだ眼の、自分とは真逆の男と出会う。

そんな葵竜により変わる事が出来た彼は、彗祥姉妹や仲間達とで都市部隊を倒し、街を救うという同じ目標に突き進んでいた。それまでは‥‥。

だが今、おびただしい数の死骸となった彼らは自分の仲間達だ。理由は何にせよ、それが彗祥によってという真実に、彼らが敵に殺されるよりも憤りが大きかった。

‥‥今まで友情を保っていた二人の仲は、それをきっかけに決裂しかけていた。

葵竜はそんな火是を闇を見つめるような眼で見る。


「‥‥だが俺はそんな彼女を救う」


「何だと?」


「俺はスタルオの力で彼女を連れて行く‥‥何処かの星へ」


彼は自分を救った女の為に全てを壊すという。

光り輝く太陽の下で、暗い表情で自分を見据えそう言った葵竜に火是は思わず叫んだ。


「気でも狂ったか!!そんなことをしたら俺たちは死ぬ!!」


それでも、葵竜は綺麗な顔を向けながら冷たく言い放つ。


「構わない‥‥何故なら、彗祥の夢と同じでこの星は消えるから」


「‥‥な‥‥‥‥」

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