6-2 激突
「お、おい」
突然赤いぬかるみの中に飛び込んだ刃灰に碧娥は思わず驚いた。
彼はその中で泳ぐように手足を這いながら踠いている。自分の傷口を浸し、まるで幻覚でも見ていたかのように‥‥そして顔を上げると、独り言を呟いた。
「‥‥いるじゃないか‥‥」
「!?」
起き上がった刃灰は全身赤で染まり、その爬虫類のような顔は確信を得たような表情だ。彼は何か策を考え付いたように薄ら笑うと、碧娥に命令した。
「碧娥、俺は化け物の軍を作るぞ、支度しろ」
「な、なんだと!?」
「生き残っている奴らを、全て連れて来るのだ。全員化け物にして我らの新しき軍を創ろう!」
碧娥は一瞬唖然とするも流石にその言動に呆れると、吐き捨てるように言った。
「人間を化け物にするだと?寝言を言うな。仲間は全てあれに殺されたんだ。光紫も‥‥もうここは俺一人しかいない」
「ま、待て!俺は今まで敵の中にいた。‥‥このままでは異凶徒の奴らに全てを破壊される。何としても奴を阻止せねばならんのだ‥‥」
自分を突き放す碧娥に慌てるように弁明する刃灰は暫く黙ると、意を決するような表情に変わる。
「それに、まだある‥‥あの中で彗祥と葵竜が来て、俺の仲間は全て殺された」
「何だと!どういう事だ」
驚く碧娥に刃灰は押し殺すように告げる。
「やったのは、彗祥だ。葵竜は彗祥を連れて《スタルオ》へと向かっている。‥‥二人とも裏切ったのだ。‥‥奴らが反感を覚悟なら、我々はそれを追う権利がある」
‥‥余りにもあり得ない内容に意味が解らなかった。
だが、その衝撃の事実よりも碧娥は、眼前にいる刃灰に異変を感じ、ずっと目を凝らして見ていた。
刃灰の薄ら笑った顔は、まるで被れたように湿疹が出ている。
すると彼は突然
「うぐぁ!」
刃灰は無意識にそれを狂ったように振り払う。
それを受けた碧娥は微弱だったはずの彼の、異常な力の強さに気づいた。
「おい、大丈夫か」
碧娥は心配そうに声をかけるも、真顔で見るだけだ。
刃灰は次第に顔の剥がれた皮膚から赤い肉が見えだし、体は腐っていくように肥大していく。そして全身グロテスクな姿を晒していくと━━。
傷だらけで瀕死だった刃灰は、逆に元気な
碧娥は
「俺は何があろうと負けはしない。奴らにも‥‥お前にもだ」
「冗談じゃない」
全身赤く剥げた血肉の塊が所々爛れ、凄惨なわりには面影の残る刃灰に対し、碧娥は影を帯びたような鋭い眼で睨んだ。
「戦いの勝敗など、この際俺はどっちでもいい。だが、お前だけは死んでもらう」
そう言うと碧娥は
刃灰は碧娥に拳を叩き込まれ暴発するも、全身波打たせながら叫ぶ。
「馬鹿め!!」
左脇腹から飛び散った血肉の塊は、碧娥の体に喰い込んでいき、皮膚や傷口が刃灰と同じようにめくれ広がっていく。
「ぐぅっ!」
激痛に耐えながら、碧娥はあの化け物になるのだけは冗談じゃないと思った。
そこから喰らいつくように襲いかかる刃灰。
反転した碧娥はそれに向かって地を蹴り上げると、横に跳んだ足は氣流と共に刃灰の脳天を直撃する。
その勢いで刃灰の皮膚は脱皮する蛇のようにブチブチと剥離した。
「ギャァアアア!!!」
悲鳴を上げる刃灰。再び刃灰に向き直った碧娥は拳を打つ為に構えると、刃灰は咄嗟にその腕を掴み、一気に引き裂いた。
刃灰は千切ったその腕を碧娥の目の前でバリバリと音をたてて喰い、ニタリと笑う。
「碧娥、お前の力、貰ったァ!!」
腕を失った碧娥の右肩関節の部分から血が塊のように溢れ出る。が、次の瞬間刃灰が有り余る力で
同時に叩きつけられる
その同じ技と力で刃灰の体は飛び出た肉塊が消滅していき、碧娥は塵となり跡形もなく消えた。
「‥‥碧娥、どこへ行った!?」
煙がまだ立ち込める中、刃灰は忍者のように消えた碧娥を捜し辺りを見渡す。彼は元の姿には戻っていたが、微弱な抜け殻のようだ。
そこへ何体もの
「助けてくれ、碧娥、碧娥、碧娥ぁーー!!」
刃灰は何度も居なくなった碧娥の名を呼び、
そのうち通路の手すりからころげ落ち塔台の下に真っ逆さまに落下すると、強い衝撃の後、刃灰の命は消えるのだった。
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