異星界の者

1 偶然

翌日、午後の授業も終わった昼下がりの校舎。クラスの生徒たちの騒ぎ声が賑わう中で、は今だに出来事を引きずっていた。


「えー‥‥何それ?それありえないって」


半信半疑の友達の大一だいいちは心配しつつも、正面で机に両肘をついているおさげ頭の少年の表情が映ったようにぽかんとした顔で見つめる。


「昨日の夜、道の真ん中を走っていたら宇宙人が現れて、目の前で急に消えたって?ないない、幻覚でも見たんじゃないの?」


隣にいた同じく友達の信二しんじは明らかに疑うようなそぶりで手を振ると、机に向かう彼は手にしている牛乳を飲みつつ、昨夜の出来事を思い出した。


「うん‥‥そう思ったんだけど、見間違いって感じじゃ無かったんだよなぁ、あれは‥‥」


まるで夢現ゆめうつつの状態だった。

さっき購買で買ったアンパン、カレーパン、メロンパンをそれぞれ食べながら話す彼らはいつもなら三人で冗談を言いふざけ合う仲で、今日は真顔でぼーっとして余り笑える状態では無い彼に、二人は慰めにもならない言葉で心配する。


「なに本気まじになってしんみりしてんだ。お前がそんな顔してるからさぁ、学校の噂になってるんだぜ」


「そんなの勝手に広めるなよ」


その話の発端は彼が不思議な人間を見たという何気ない一言だったのだが、それが噂好きのクラスの女子の耳に入るといつの間にか校内に広まってしまったのだ。



「ヒョウスケ、宇宙人見たって本当なの?」


彼の名は雹介ひょうすけで、普段はヒョウと呼ばれている。

その本名で呼んだ女子三人組が彼らに近づいて来ると、好奇心いっぱいの顔でヒョウの机を取り囲んだ。


「なんでも空からやって来たんでしょ?ねーヤバいってそれ!」


女子達は顔を見合わせ笑いながらヤバイを連発し、その中心で虚無の表情をしている少年を置いてけぼりにしながらどんどん話を盛り上げていく。


「面白そうじゃん!ね、皆んなで見に行かない?」

「行こう行こう!」


「俺はいいよ」


面白半分の女子達にヒョウが興味無さそうにしても、更に彼女達は喰いつき気味に絡んでくる。


「なんで?私も見たいから連れてってよー」


「じゃあせめて場所だけでも教えて、何処にいたの?」


いろいろ深掘りしてくる女共にヒョウは内心ウンザリしてきた。

有りがちな女子達の好きなオカルト話が盛り上がったとしても、広げられた話に誤解が生じて後で嘘だったとかデマだったとか言われて自爆したく無いと思ったからだ。


「いいよもう、気のせいだったんだよ。俺が悪かったって」


そして彼はだんだん自分が間違っていると思うようになってくると突き放すような目で席を立ち、その場の女子達から離れようとした。その時‥‥

「何の話?」と後ろから声がした。


顔を向けると、窓際の方から話しかけてきたのは同級生の沙夜さよと言う少女だった。


ヒョウはまた有りもしない風呂敷を広げてくる‥‥と思い視線を戻すと邪魔くさそうに背を向けながら言った。


「別に、‥‥昨日の夜、宇宙人を見たなんて信じるなよ」


「私も昨夜見たのよ」


「えっ?」


自分のいい加減な言葉に対する意外な反応に、ヒョウは思わず振り返って沙夜を見る。


「まさか‥‥君も、その場所でを見たっていうの?」


疑うヒョウの顔をあどけなく見つめる沙夜は首を横に小さく振った。


「見てないわ。けど‥‥金色の髪の人が空から降りて来たの。それで私、光る石を貰ったっていう‥夢‥‥だけど‥‥」


「‥‥‥夢?」


金色の髪!確かに自分が見た男とは特徴は似ている。

しかし沙夜が見たのは夢だ。夢とそれは別物だろう‥‥。


さっき迄の女子達とは違い僅かな共通点がある。

だけど‥これ以上話を広げられても同じく後からバカにされても困るので、ヒョウは何も言わず沙夜から離れるとすぐ教室を出た。


「待ってよヒョウ君!」


ヒョウは、何度も呼び止めようとする沙夜を無視して通路を歩いていく。


「待って!!  雹介ぇええーーー!」


通路を歩いていくヒョウの後ろ姿を追いながら、沙夜は周りの騒ぎ声に負けないくらいの大きな声で叫んでいる。

色んな生徒達が振り返って僕たちを見ているが、ヒョウはしつこすぎるその声にふと立ち止まって振り返る。


「何だよ、一緒に夢の中に現れたイケメン宇宙人を探そうって言うのかよ」


「そんなんじゃ無いって!でも、確かに‥‥夢だけどぉ!」


息を切らしながら追いついた沙夜の顔は半分馬鹿にするような発言をされたせいもあり、赤くなっている。


「まだ否定しなくたっていいんじゃないの?私、確かめてみたいの!」


ヒョウの目の前まで来て黒い瞳でじっと見つめる沙夜。ストレートの長い黒髪を後ろにまとめ、すっきりとした首の上から清楚な表情を見せるその顔は、最近には珍しいほどに普通の女の子だ。


沙夜はただ必死で自分を見ているだけだったが、ヒョウはその顔に何を思ったか、一瞬目を逸らし上の空を見るとふと‥言葉を漏らした。


「ひょっとして、勘違い入ってる?」


「えっ?」


‥‥どっちが!と自分で思ったが、何の事か意味が解らない沙夜にヒョウはニヤリとしながら言った。


「じゃあデートしてくれる?」


「な、何よそれ」


「それなら話は別だけど。君が天体観測に誘ってくれるって言うんなら、一緒にドライブに行こう。‥‥学校終わったら、またこの場所に来てよ」


正直、昨夜の事はほぼどうでもいい彼は、単純に彼女を連れて何処かに行きたいというだけだった。


「‥‥わ、解った。絶対来てよ!」


その挑発に乗った沙夜。

二人はその夜、ヒョウが見たという場所に向かったのだった。


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