星幻の放浪者(改訂版)

嬌乃湾子

序章

ある真夜中の出来事、静かな沈黙の世界が広がる暗闇の夜だった。街に灯る街灯の明かりだけは恍惚と街を照らし、空の下から星のように輝いている。


午前二時のこの時間、突っ切るような排気音が響く。


誰もいない闇夜の道を一人の少年がバイク‥旧式のニンジGPZ400Rにまたがり、ジャンパーとへルメットの後頭部から出ている結んだ黒髪を揺らしながら風になびかせている。


学校に行っても勉強や部活に勤しむ訳ではなく、彼女も居ない。特に目立った事もない生活だった。そんな彼は誰も居なくなった夜の街道をただ一人、バイクに乗ることだけが唯一の楽しみだった。


外はまだ肌寒かったが、高速で移動する風景を眺め清々しかった。

滑らかなアスファルトを光と音が流れるように切り、陸橋のてっぺんに上がろうとしたその時‥‥。


━━彼は、暗闇の空から一条の光が降りてくるのを目にした。


「‥あれは‥‥」


彼は走りながら落ちていくものをぼんやりと眼で追っていく。


「‥流れ星か‥‥?」


そう思った瞬間‥‥その光は目の前に急に現れ、突然弾けた。


暗闇から一瞬にして発光する光に目が眩んだヒョウは驚いた。

何故なら、その中に人がいたから。


‥‥緑色の眼はこっちを見ていた‥‥。


透き通るような男と女の姿だった。光の中に居る眩しく輝く髪の青年は、髪の長い女性を胸に抱きしめていたが、その女性の方は眠るように青年に支えられている。

その、緑色の眼で自分を見ている青年は初めて見るような綺麗な顔をしていたがどこか悲哀の表情をしていた‥‥。


ヒョウは吸い込まれるようにその表情を見た‥‥が、我に変えるとそこへ突っ込んでいく自分がいた。


「うわぁあああー!!」


バイクは急ブレーキをかけたが止まれず、アスファルトを滑るまま自分も光の中へ溶け込もうとしていた。


‥‥ぶつかる!!と訳もわからず思った瞬間━━、


「‥‥‥?」


辺りを見渡すとそこには誰もいず、暗闇の中に静けさだけが残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る