回想 日のない星の街・2

1-1 戦場

「━━で、どうする?」


火是カゼ刃灰ハクイに聞いた。

━━外を見ると暗いというより、灰色に近い‥ここには奥に、街の女子供等が隅に詰めるように隠れ潜んでいたが、刃灰は元々の低い声を発した。


「奴らの狙いは燈台の《スタルオ》だ。吉と出るか凶と出るか、周りから潰し取り囲んでから、一思いに叩き込もう」


「だよな」


片腕の装甲に巨大な銃器を取り付けている火是が同意すると、刃灰の背後にいる都市部隊のメンバー達がその意味を象徴するかのように武器を持ち構えた。

すると、この場の雰囲気に似合わない二人、彗祥とその隣に居る葵竜キロウが彼らを見まわしながら心配そうな顔をする。


「無闇に攻撃をすれば街の人たちや仲間に犠牲が出る」


「は?お前は俺たちの邪魔をするつもりか」


刃灰が不満そうに葵竜を睨み付けるも彼は朧に輝かせる瞳で見返す。


「‥‥それに、相手は人だ。俺たちは彼らの侵略を防げればいい」


「何言ってるのよ。攻撃してくるのは彼らじゃない」


腰に真っ赤な鞭剣ウィップ・ロッドを巻き付けた少女、緋翠が燃えるような眼で葵竜にそう訴えると、二人の間で刃灰は眼をぎらつかせて薄笑いを浮かべた。


「ふふふ、珍しく気が合ったな。そうだ葵竜。殺らねば此処がやられるんだぞ」


そう言い聞かせられ、心配する彗祥や街の女子供の視線を受けながら悲しい目でハンドガンを手にする葵竜。


碧娥と機械の剣マシンソードを持つ光紫は窓の外を気にしながら、


「俺たちはバラで行動する」


と言うと、火是は「彗祥はここ守れ、葵竜は上から頼む。俺ははねっかえりと一緒だ」と緋翠を見た。


「誰がはねっかえりなのよ」


━━彼らは、意を決したように立ち上がった。


「じゃあな!」


彼らはお互いを見合わせると一斉に外に、刃灰は都市部隊を連れ、それぞれ散るように駆け出した。



彼らは外へ飛び出したが表立ってではなく、幾つもの高層ビルの真下を隅から隅へ、幾つかに別れた刃灰の部隊さえまるで影が渡るようにどこかへ消えていく。


血が滲んだ瓦礫に火が煙を上げていた。

外に見えるのは隙間もないくらいの見張りと兵器。空からは無人小型航空機ドローンが街を銃撃し、中から追いやられた市民が叫び声を上げ、まるで操り人形のように機械的に動く異凶徒達に攻撃されていく。


‥‥そんな光景を目に、現れた火是は片腕に取り付けられた装甲のアーマード榴弾砲ハウザーを一発撃った。

遠方から進んできる異凶徒軍の群れに火の光が弧円を描いて照らすと焦げ付く熱の光が広がり、それを号令に都市部隊は攻撃を始めた。


逃げ纏う人の上空を飛んでいた無人小型航空機ドローンに次々と光の矢が走り貫いていく。

一つ残らず葵竜が光の小銃ライトハンドガンで撃ち落としていくと、碧娥の爆風の弾丸ブラストブレットと光紫の《マシンソード》も戦場で煌めいた。



火是が片腕の装甲のアーマード榴弾砲ハウザーを撃ち、緋翠が鞭竿ウィップ・ロッドを振り投げて襲いかかる敵を薙ぎつけ、互いに援護しながら敵軍の中を突き進んでいく。

火是は走りながら後ろからついてくる緋翠に喋りかけた。


「狙うのは奴らのおやびんだ」


━━今、俺達が彼らの中に入り込めば一触即発になるのは解っている。

その前に━━そんな火是の思いもよそに、二人は特別目立つ異凶徒の集団が列を為して進むのを目にする。


異凶徒の集彼らが目的の場所へと進むその中に、火是と緋翠はある人物を見た。


「あれが‥‥」


緋翠は、そう呟くと、考えるいとまもなく跳び出した。


「緋翠!!」


徒軍の一番前に降り立った緋翠。

彼女は鞭竿ウィップ・ロッドを振りかざすなりその男を睨んだ。

‥‥が、その男の鎧の奥の眼光に思わずたじろぎ、突然どよめきが起こるや異凶徒集団の眼が飛び込んで来た緋翠に集中すると、隠れていた都市部隊と碧娥や光紫が一斉に姿を出して緋翠を囲む彼らに襲いかかろうとした。

だがその時、


「待て!!」


そう叫びながら火是が現れた。


緋翠の前に立った火是が「総支配者・ルーダー」に銃口を向けると、敵も見方も一瞬で動きが止まり皆黙る。

火是は異凶徒の総支配者、ルーダーに詫びるように言った。


「とんだ失礼をしたな。至らないで」


「これ以上私たちに攻撃するなら殺すわよ!」


顔も体も鎧で身を覆う男に緋翠が吐き捨てるように言うと、遠くにいる光紫が彼らを注視しながら一言、言った。


「スタルオか」


ルーダーは笑っているようだったが、鎧の中から僅かに見える表情は不快だった。


「貴様も解っているだろう‥‥これは我々が生き残る為だ」


それを聞いた碧娥も納得したように、皮肉まじりに笑みを浮かべる。


「そうだな、いつまでもこんな鉄で出来た星に住めないことぐらい俺たちも解ってるさ」


そんな碧娥を遠くから緋翠が睨むと、火是がルーダーに言った。


「確かにな。だが一部の集団より、大勢の星の人間の方が大事だと思いませんか?」


そして火是は装備した装甲のアーマード榴弾砲ハウザーを掲げながら向き直る。


「やれるものならやってみろ。どうせ燈ごとぶっこわしてもは奪えないぜ。俺たちが阻止してやるからな」


「‥‥それはどうかな‥‥」


ルーダーは、引くように笑うと思い出すように言った。


「ああ、そう云えばあの男、捕まえるのは簡単だったな」


「なんだと」


「お前達の仲間はそれだけか?んんん?」


火是の顔は曇った。眼で周りを確認すると、いつの間にか一部の仲間が居なくなっている事に気づいた。


「これは‥‥どう言う事だ」


「とんだ見当違いだったな。‥‥では、我々はこれで失礼するよ。我々は早急に


ルーダーは引き笑いと共に一部の異凶徒を引き連れ去る。

残された異凶徒が緋翠と火是へ一斉に銃口を向けると、同時に彼らの攻撃も再開した。


「あぁっ!!」


緋翠は思わず叫んだ。空を見上げると天井から無人小型航空機ドローンが現れ幾つもの光が落ちてくる。幾つも爆発すると目の前が崩れ、なす術も無い状態で火是は緋翠を呼ぶ。


「緋翠!!」


敵の中で火是は真上に装甲のアーマード榴弾砲ハウザーを撃ち放った。熱の壁がバリヤーのように二人の周りを囲み、その中で緋翠が鞭竿ウィップ・ロッドを一振り打つ。

真横に薙かれた緋い一閃で黒炎の太陽となり広範囲に広がり、その一瞬で二人はそこから大きく跳んだ。

空に起こる筈もない大気が怒号となり稲妻が閃き、彼れは死戦から逃れる事が出来た。


結果的には大勢いた仲間は殆ど死に、刃灰が連れた部隊は戻ってこなかった。

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