1-3 そして過去へと

「お前‥‥何をしたんだ?」


緋翠を脇に抱えた碧娥は突然現れたヒョウに不躾ぶしつけにそう聞くと、ヒョウは何も解らない顔で答える。


「え‥?俺は‥‥緋翠から貰ったスタルオを投げただけで、それがあんなに光るなんて‥‥」


「‥‥‥‥」


緋翠と碧娥が衝突した時、二人の間に起こった爆発を見たヒョウが突発的に投げた《スタルオ》の欠片。それ自体には何の意味も無かった。

しかし、その石はその時一瞬何かの力を発し、爆発と緋翠は同時に全ての力を失い、気を失ったまま動けなくなってしまったのだった。


「‥緋翠は‥‥」


そうとは知らず、人質のように自分の目前で緋翠をかかえている碧娥を目にすると、ヒョウは叫んだ。


「お前、緋翠を一体どうするつもりだ!?」


「━━さあな、そいつは言えないな」


ニヤリと笑った碧娥は勝ち誇ったようにヒョウを見る。

そうしつつも、緋翠が毒にも薬にもならないこの小僧ヒョウをかばい、闘っている事に対したとえ同情でも面白く無かった。


「緋翠がこうなったのはお前のせいだ」


ヒョウは非難するような碧娥に緋翠の顔を見た。


「‥‥俺が‥‥よく解らずに石を投げたから?」


碧娥の脇で眼を閉じたままの緋翠。いつもと違うのに気づいたヒョウは今までを思い出すように頭の中で今までの事を巡らせる。


‥‥俺が沙夜を探す事で頭がいっぱいだったから‥‥。

そのせいで緋翠はずっと‥‥化け物とかと闘ってきたから‥‥?


すると、緋翠に対し責任を感じたのか、ヒョウの目から玉のように涙が溢れ出た。


「‥‥俺は‥‥緋翠が強いからって甘えてたんだ‥‥。緋翠は変わらないでいいと言ったけど‥‥今度は緋翠を守らないと‥‥」


「じゃあお前に何が出来るんだ」


何の能力もないヒョウの言葉が碧娥にとって出任せにしか聞こえなかったが、そんな碧娥にヒョウは訴える。


「俺が緋翠の代わりに葵竜あいつに会って、沙夜と俺の世界を元に戻してもらう‥‥そうすれば、あの化け物も居なくなるんだろ」


「あいつは気を失っているだけだ」


黙って聞いていた碧娥はそう言うと、ヒョウに苦言するように続けた。


「だが、緋翠も俺たちもお前等とは違うんだ。住む世界も生き方も、全てが」


「‥‥‥‥」


「それと教えてやる。葵竜の連れてきた娘‥‥。ここを消したいのなら、あの娘を殺すんだな」


「そんな‥‥‥」


「緋翠は俺達のものだ。これ以上、緋翠に近づくと本当に殺すぞ」


碧娥はそう言い、緋翠を連れて立ち去ろうとする。

‥‥その碧娥の眼前に、一つの影が立っていた。


「‥‥お前は、光紫」



光紫は淡い光が射す新緑の世界で佇んだまま、碧娥を見ている。


「どうやってここに来た」


「お前と同じだ。ここしか入るところがなかった」


碧娥の問いにそう答える光紫。

‥‥つまり、そういう事か。と碧娥はに気づいたが、光紫は横目でヒョウの方を見ると碧娥に言った。


「そいつの言う通りだ。緋翠を放してやれ」


「何だと?お前まで俺を見損なうな」


光紫は意外な顔をした碧娥へ向けて機械の剣マシンソードを一振りすると、稲妻が走り、碧娥の横を掠めた。



‥‥そう言いながら威圧的な目をする光紫を前にして、碧娥は悔しまぎれに抱いていた緋翠をヒョウに突き放す。


「ちっ!!」


「緋翠!」


飛ばされた緋翠は一瞬ヒョウにぶつかると、何の力もなくそのまま崩れ落ちる。

ヒョウがその体を支えたまま座り込むのを見ると、碧娥は光紫を睨みつけた。


「次はお前か、光紫」


二人の間に言いようのない緊迫感が走った。だが光紫は、


「俺はお前とは闘わない」


と言い放つと機械の剣マシンソードを地に立てて木を背にし腰を下ろした。



「━━ヒョウ」


うつむきながら光紫はヒョウに言った。


「目が覚めるまで緋翠はお前が見るんだ」


「‥‥おい‥‥」


自尊心が傷ついた顔で碧娥は低く唸った。


「そんなに俺が信用出来ないのか」


怒ろうがジト目で見られようが光紫は尚も冷静だ。


「多分、誰も殺す必要もないし、壊す必要もないからだ」


「お前がなぜそう思うんだ?」


「彗祥の気持ちは、ここを見れば解る」


そしてヒョウに、


「さっきの話が、本当なら‥‥お前に、俺たちとあいつの話をしてやる」


と言うとヒョウは驚いた。


「‥え‥‥あいつって‥‥」


光紫は、ヒョウにその話をした。

同時に緋翠も同じ夢を見ている。

話は再び緋翠の過去へと、戻っていく‥‥。

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