3−3 三人のバトル

緋翠が光紫こうしと呼んだ、短い黒髪の顎が細く端正な顔をした男は暗闇の中でも紫に光る剣のようなものを手にし、片膝立ちで正面から待ち構えている。


見据えるような、やや切れ長の目には少しの戸惑とまどいも無い。

ヒョウが気が付く間も無い一瞬の出来事だった。


バイクは吸い込まれるようにその男に近づくいていくと━━光紫は鋭い眼差しで、有無を言わさず刃を振り薙いだ。


ヒョウは紫色の光を見た‥‥!

光紫の機械の剣マシンソードという機械の剣から歪む音ディストーションと激しい雷光が走る!


「うわぁああーー!」


発動した紫の雷から逸れるように咄嗟にハンドル転換させる!

切り割られたアスファルトは一瞬で亀裂が広がり、辺りを破壊していく。

ヒョウのバイクはその直撃は免れたものの横滑りしながら転倒すると、二人は道路脇の地面へと投げ出されてしまった。


「‥うぅ‥緋翠‥‥」


地面に体を擦っただけといえど、若干の痛みを感じる。

起き上がり、足を引きずりながら倒れた状態の緋翠の側に近寄り心配そうに声をかけるヒョウ。

その声で顔を上げた緋翠はヘルメットを外しヒョウを見た。


「‥‥ヒョウ」


「何なんだよ一体‥‥さっきの土から出てきた男といい今の男といい、いきなり攻撃してくるなんて‥‥」


ぼやきながら碧娥や光紫に疑問を持つヒョウにその真相を答える間も無く、緋翠は二人の男が近づいて来るのに気付いた。


前方からは冷めた目、後方からは野獣のような目の二人の男は自分達に挟まれ怯える少年の隣に居る緋翠の方に向くと、彼女はぽつりと呟いた。


「彼らは昔の仲間よ」


「えっ?」


「━━緋翠」


「緋翠」が立ち上がると「碧娥」と「光紫」の三人は間を開けて向き合う。

闇に包まれたようなその表情は、互いに警戒しつつもどこか懐かしんでいるような‥‥暫くの沈黙の後、初めに口を開いたのは碧娥だった。


「またお前に会えるとはな」


「そうね。お互い生きているとは思わなかったわ」


懐かしむ言葉にもあっけらかんと返す緋翠に、碧娥はふっ、と笑うと忘却の目で更に続ける。


「もっともお前は目的が違うだろうが」


「‥‥‥」


を蒸し返すような碧娥の言葉に最初は茫然と聞いていた緋翠だが、だんだんと燃えるような瞳に変わっていく。


「しかし俺たちはもう、


同じく目を閉じたまま何かを思い出す光紫は、目を開いた。


「我らが生きる道はただ一つだ」


物静かだが激しい感情を表すように、再び機械の剣マシンソードを背から振り上げる体制で構えるや緋翠はらんと輝く眼で微笑んだ。


「それじゃあプチ同窓会でも始めようかしら!」


次の瞬間、ヒョウから離れるように走った緋翠は手に持った鞭竿ウィップ・ロッドを二人に向けて放つと、それを合図に三人は一気に躍り出た。



緋翠が二人同時にダメージを与えようと大きく振り上げた鞭竿ウィップ・ロッドは緋色の弧を描いて翔ぶと、光紫は紫に煌く機械の剣マシンソードで防御し、碧娥は波動を伴う素腕で弾いた。

攻撃を跳ね返された緋翠は鞭状の鞭竿ウィップ・ロッドを一旦引き戻し、再度一振りすると鞭竿ウィップ・ロッドは竿のように真っ直ぐに伸び、相対する二人へと伐ち付ける!



全身から密かに紫がかった黒が映える光紫、爆煙の嵐さながらの気迫を伴う碧娥、可憐な緋色の妖花のような緋翠。


の仲間である三人は、尋常では無い殺気で打ち合いを続ける。

光紫が我らが生きる道はただ一つ、と言ったのは化け物と同等の異界の者として、侵略を前提で生きるしかない、という意味であろうか。


かく言う緋翠も‥‥あの二人同様、己の中にたぎる憎しみに近い感情が、相対する者を誅戮し尽くそうと渦巻き、暴発するのを堪えているのだ。



「緋翠ー!」


そんな彼らにヒョウは訳も解らず何度も叫ぶも、その声は届かない。



目線を防ぐように機械の剣マシンソードを横に構え、離れていく光紫は二人の動きを読みながら移動する。

それを追う緋翠は、鞭竿ウィップ・ロッドを真空に長く大きな弧を描きながら飛ばした。


その一振りで鞭竿ウィップ・ロッドは衝撃で地面を弾くと宙で斬りつける赤い残像へとなり、幾つものつるのように光紫へ絡み付いていく。

だが、緋翠に向き直った光紫は目線の機械の剣マシンソードを振りかざすと刃から走り出た三日月型の雷光は赤い残像を斬り散らして一掃し、緋翠目掛けて襲いかかる。


鋭利な刃物同然の三日月の雷を大きく跳んでかわした緋翠が跳んだ刹那、構えた鞭竿ウィップ・ロッドは頭上から滑り落ちるように光紫に狙いをつけた。


すると、別の方向から碧娥も拳を撃ってきた!


あわや、直撃してくる風の弾丸に光紫と緋翠は互いの武器で打ち弾いて跳びずさると、うねりを伴う轟音が二人の間を通過していく。


緋翠が一瞬怯んだ隙に、近距離に接近した光紫が機械の剣マシンソードを縦割りに振り下ろすのに気付くと、緋翠は咄嗟に彼の軌道から避け、鞭竿ウィップ・ロッドを下から薙いだ。


機械の剣マシンソード鞭竿ウィップ・ロッドが閃く。


行き違いになった二人の刻まれた上腕部から爪痕を受けたように血が滲んだ。それを抑えながら感じる痛みに耐える緋翠に、背後から風が吹き荒れた。


「!!」


撃ち放たれた大気の渦が荒れ狂い緋翠の鞭竿ウィップ・ロッドの動きを鈍くするも、更に拳を撃ちつけようと襲いくる碧娥に緋翠は渾身の力で反転ジャンプし、碧娥の拳をかわしながら彼の体を壁のように蹴り上げて、鞭竿ウィップ・ロッドを叩き付けながら逆方向に跳ね跳んだ。


地に降り立ち体制を取り戻した緋翠は前後に挟まれる状態になる。


このまま抗えず封じられるか?それとも彼らの動きを抑制させれるか?

そう考えていた時、不意を突かれた碧娥が再び風の拳を撃つと、辺りを飛び交うような風圧がうねりながら緋翠に集中する。


緋翠は鞭竿ウィップ・ロッドを地に摩擦のようにこすりつけながら、向かってくる暴風を竜巻の如く変化させ、それを跳ね返していく。


その破壊力で周囲の建物は壊れ崩れ落ち、火が燃え上がった瓦礫から幾つもの小さな竜巻火が出来ると更にそれを鞭竿ウィップ・ロッドで拾い上げ、炎の竜巻を振った。

だが、緋翠が見上げると、紫の光は真上にきらめいていた。


雷鳴が響き、稲妻が走ると空中で機械の剣マシンソードを掲げ、滑空する光紫に緋翠も跳び上がる。

稲妻が頭上から落ちる直前、緋翠の方が早く動いた。


赤い炎が走り、光紫を襲った。


「がああぁっ!!」


大気が蠢き、『氣』を込めた碧娥は野獣のような声を発しながら、緋翠目掛けて爆風の弾丸ブレストブレットを撃つ。


「はぁっっ!!」


風が荒れると重い風圧の中を赤く走る緋翠の鞭竿ウィップ・ロッドが熱風を切り裂いていく━━。


その攻撃を受けて体から血が噴き出す碧娥。

それでも彼らがまだ闘い続けようとすると、治るどころかヒートアップしていく彼らのバトルに拉致が開かないと感じたヒョウは、突然その中へ入り大声を上げた。


「緋翠ぃい!!!」

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