5-2 真相の行くえは
塔内に突如現れた化け物、
ルーダーの精神を破壊するという《スタルオ》の爪を受けた彗祥がそこに居た都市部隊の者達を殺戮した事で、その血を浴びた死骸の流れ血でこの異様な現象を起こしたという事実を、彼らは知る由もない。
それまで都市部隊と異凶徒軍に分かれ死闘を繰り返してきた。そのせいで緋翠は最初、あれは異凶徒軍が作り出したものだと思っていた。
だが、実際彼らもあれに殺され化け物に変わりゆくのを目にし、戦うべき敵が変わってしまった。
『‥‥あんな化け物と太刀打ち出来るの?‥‥もしこの武器で
今まで街を守る為に同じ人間と戦う自分を残酷だと思わなかった彼女は、今いきなり現れた得体の知れないものとの悍しい光景に動揺が抑えられず、この世の「終わり」という脳裏が脳裏を過ぎる。
「‥‥葵竜‥‥姉さん‥‥‥」
「冗談じゃない。奴らを塵ひとつなく消滅させてやる」
ぶっきらぼうに言い捨てた碧娥は緋翠から視線を外し背を向けると、同じように光紫が反転し、共に歩き出す。二人は化け物と戦うつもりだった。
「行こう」
光紫と碧娥は決意したように顔を見合わせた後、緋翠に背を向けたままこう言う。
「緋翠、お前は葵竜や彗祥のところに行くがいい」
緋翠は無事でいて欲しいと思い言った言葉だった。緋翠は一瞬唖然とするも、自分だけが置いてけぼりを食らったように感じると思わずムキになる。
「冗談じゃないわ、私も行くわよ!」
そう言いながら駆け寄ってくる緋翠に、二人は何も言わず振り向いた。
‥‥緋翠ははっとした。二人の後ろ姿を通し全体を見渡すと、広い空間の中を大気が
「緋翠。俺たちは今まで一緒だった‥‥この星での戦争も、平和を願って戦ってきた」
光紫はそれまで自分から放そうとしていた緋翠を諭すように話しかける。その姿は駄々をこねる子供をあやすようであった。
「そうよ。私は二人とずっと一緒だったわ」
「だが今は‥‥」
不安に苛まれつつ追い縋る緋翠に、光紫は紫がかった暗い瞳で真面目に言う。
「俺の相手は人間ではなくあれだ。異凶徒やスタルオの前に、あの化け物を一人残らず消さなければいけない」
「だから、私もやるの。私は、何のための
自分と碧娥に真っ赤な眼を向ける緋翠に覚悟した光紫は、静かだが優しい眼で見る。
「お前がそれでいいというのなら、俺は構わない。‥‥たとえ何かの拍子で壊れても、全て俺たちが築いてきたことだ‥‥」
碧娥は笑うと、緋翠もつられて二人に笑い、その後に光紫が珍しく微笑んだ。
そして三人は広い吹き抜けの空を仰ぐと、再び碧娥は
体気の流れで光紫と緋翠は塔台の中を跳び,壁を蹴って加速しながら
光紫は横壁を跳び渡りながら上界の方へと向かうと、巨大な
それに向けて飛び込んだ彼は、実状的にこの真相を知りたかった。
「
それが、人の行為だとするなら‥‥。
有り得ない腕力で猛威を振るう巨大な
目の前の者を牙を剥き出しに喰らいつこうとする
飛び散った肉片が触れる度、びしびしと体や顔に伝わる。幾つもの体で出来た体内の「核」を眼前にし、再び構えた
━━その瞬間、彼は
「ぐぁぁあぁーー!」
光の魂を全身に受け、光紫は
‥‥光紫は体中にこの
その光の魂の中で半ば呆然とした彼は、この化け物の「核」が何なのか‥‥その真相の結果が、解った。
それは《スタルオ》の力。
見上げた光紫は途方もない視線を一瞬向けると‥‥
激しい電撃で
‥あれを‥作ったのが‥‥彗祥だったなんて‥‥
血を浴びたような光紫は、落下しながらそう呟いた。
緋翠‥‥彗祥を殺したのは‥‥‥‥。
その声は緋翠には聞こえず、緋翠が見る光紫の姿は深い奈落の底に消えていく。
「いやあぁっ!!」
緋翠が叫んだ時には既に光紫は見えなくなっていた。
緋翠と碧娥は呆然とした。当たり前のように一緒だった仲間が敗れ、目の前から居なくなる。
そんな現実に己まで壊れそうだった。心配した碧娥が近づくと、緋翠は下を向いたまま彼の腕を掴んだ。
そして顔を上げ、碧娥を見る。
「‥光紫が‥‥」
緋翠の眼には涙が浮かんでいた。
碧娥は見たこともない緋翠の顔にそれまでのギャップを感じ、不謹慎にも思わず見つめてしまう。
だが、緋翠はそんな事には気づきもせず、自分に向けられる視界の向こうに何かを見つけると、急にはっとした。
「━━あれは!」
緋翠の視線に見えたものは、螺旋階段を血だらけで上がっていく総支配者ルーダーだった。
「緋翠ーーー!!」
すぐ表情を変え、何も言わずに睨んだ緋翠はルーダーを跳ぶように追っていく。それを追いかけようとした碧娥だったが、彼は更にもう一人、誰かが現れるのを目にした。
「お前は、刃灰!」
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