1−3 回想・グリームの街(下)

光紫はそう言い、あとは多くは語らない。言い方は冷淡だが悪気は感じられず、どこか言い難い魅力があった。


そんな彼の雰囲気を上乗せするような勢いで睨む緋翠。


「何言ってるの光紫。こんな物騒な部隊なかで凶暴なといっつも居るのよ。もっとか弱い人たちの身になってよ」


『凶暴‥‥どっちが?』


『か弱い‥‥誰がだ?』


‥‥光紫と碧娥は互いに横目で視線を交わし、意思を疎通させた。


それはこっちの言葉セリフだと思うのだが‥‥


こんな気も合わず話も噛み合わない三人だったが、それでも対等に話し合える間柄。その時、


「楽しそうじゃないか」


と誰かが話に割って入ってきた。



「その、敵意を向ける奴らを今から相手にするぜ」


そう言って現れたのは火是、続いて刃灰はくいという男。

この場所にいた者達が二人を見た。


戦いの緊張感を持ちつつどこか明朗な雰囲気を持つ火是と、鍛え抜かれたシャープな体型のわりには爬虫類のような面持ちの刃灰。


━━緋翠は自分に武器の扱いを教えてくれた火是は嫌いではなかったが、この刃灰という男が好きでは無かった。


頭が良く、戦いの指示をする彼のやり方は極めて残忍で、緋翠が彼が嫌いな理由はそこにある。


しかし、そんな都市部隊のお陰で街はとりあえず安泰だったのだが‥‥。

それに、市民の中で今の状況に不満をこぼす奴らよりは、緋翠はここにいる方が良かった。



本当ほんっとあいつら、いい加減いつになったらここを襲うのを止めてくれるの?」


緋翠が異凶徒に対して不満をこぼすと、刃灰が言った。


「ならば教えてやろう。奴らが何故この街を襲うのか」


「何なんだ?」


「それは燈台の《スタルオ》のことだ」


「スタルオ!あの、街の一番高い燈台のてっぺんにある、石の飾りの事か」


「そうだ」


「あんなものが一体何になる?金になるとかか?」


「それもある‥‥しかし、理由はもう一つある」


そう言った刃灰はこんな話をした。


━━何故、この街は日が射さないのか!それはこの星が人工の衛星都市のように、円球の裏側に皆住んでいるからだ。


このグリームの中心には《スタルオ》という石が世界を照らしているのだが、その《スタルオ》に向かってそびえ建つ燈台がある。


それは花のような飾りが施されていて、中に《スタルオ》と同じ石が輝き、街のシンボルとして輝いている。


それが異凶徒やつらが狙う、何らかの関係があるといわれているが‥‥と刃灰は言い終わると、その話を聞いた火是は大笑いした。


「馬鹿げた話じゃないか。奴ら、あんな石ころに興味があったとはな」


「理由はどうであれ、街を破壊されるのは冗談じゃないわ」


緋翠のあとに碧娥も続けた。


「それに、燈台とはいえあれに辿り付くなんて相当な距離だ。そう簡単に奪えないだろうが」


「‥‥それはどうかな?」


それを聞いて含み笑いをした刃灰の面白い程不快な顔といったら無く、緋翠は思わず怒りが湧き上るが、光紫が無言でそれを制止させた。


すると葵竜がこの場に合わない風のように爽やかな笑顔でぽつりと言った。


「略奪なんて意味が無いのに。俺はあの光と共にいられればそれで十分だな」


と穏やかに言われた火是の表情が変わり、思わず笑った。


「‥‥そうだな」


都市部隊の中では火是達の猛獣使いとなり、街では人を寄せ集める葵竜。彼はそんな男だった。

色んな人の心を包み込むと同時に、緋翠は彼に対して妙な気持ちを感じるのだ‥‥。



天聳える燈台へと向かう異凶徒の群れ、

誰が建てたのかは不明だが、神聖な空気を漂わせている輝きを背に、‥‥彼らは、戦いに向かった。


戦場の空は炎が飛び舞い、街には戦火が燃え広がるが、グリームの星の太陽とも言える《スタルオ》へと通ずる燈には及ばず。


それでも彼らは闘い続ける‥‥


緋翠の話はそこで終わった。

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