2-3 「手」
一般的な日本人の少年であるヒョウの掌に比べたらがっしりとしていて大きい。‥‥ヒョウと
土の中から突然生え出てきた「手」は掌から指先、腕へと痙攣しながら伸びていき、辺りを探るように動いているのだ。
それが一瞬止まると今、まさにヒョウを喰おうとしていた
「ギィ‥‥ィイュァアアァアァア‥‥‥!」
じわじわと締め付けていく指に軋む音と痛みに声を漏らす仄暗い
化け物とはさっきまで餌となる獲物の立場であったヒョウは、
苦しむ
すると次の瞬間、掴んだ足を軸にして、噴出した土と共に体が一気に這い上がった。
目の前で立ち上がった「人」
ズボンは履いているが上半身は裸。長身で腰まであるダークブラウンの長い髪を靡かせるその男は、一見無骨ではあるが躍動的な全身鍛え抜かれた体をし、
「はぁああぁーーーぶるるぅっ」
まるで死んでいた人間が目を覚ましたように、暗闇の空に現れた男は低い声を吐いて荒く身震いすると、ヒョウと
「がぁあぁああぁーーーーーーー!!」
野獣のような声を上げるなり空の大気がその男に集まるように旋回し、長い髪を靡かせながら、渾身の「氣」を込めて
「うゎあぁーーー!」
爆音が響いたと同時に
‥‥暫くし、視界が見えるようになった辺りは静けさを取り戻すと、ついさっきまで興奮状態だった男は視線を
「‥‥ここはどこだ‥‥」
我に帰ったように呟く男はここが何処なのか解らないらしい。
すると、彼の前に誰かが闇の中から姿を現した。
それはさっきヒョウと沙夜が見た、金色の髪のあの「青年」である。
彼は半透明な姿で、今現れたばかりの男を見ながら滴のように響く声を出した。
「久しぶりだな、
「お前は‥‥
二人はお互いを名前で呼んだ。異形の目をし、どこか人間離れした二人だったが、葵竜という青年は
碧娥という男は疑心暗鬼なのか、自分の手を確認しながら葵竜という男に聞いた。
「あの時、俺たちは皆死んだ筈だ。どうせお前の仕業だろう」
「魔法だよ。《スタルオ》に我が故郷を滅ぼされた想いを念じ、我々はこの星に来た。
‥‥新しい世界を作る為、お前もこの
「勝手に決めるな」
葵竜にそう言われて碧娥は睨むように横目で見ると、更にぶっきらぼうに尋ねる。
「ということは、あの二人はどうなったんだ?
‥‥それに、
「彗祥は眠り続けている」
彼の眼はあくまで変わらない、美しく淡々とした表情だった。
「彼女の夢は、体の中を蛇が通り、虫の死骸の道を歩いている」
━━お前は何故そんな事を?‥‥冷たい表情で言い放つ青年に、碧娥は自分の知っている筈の彼と照らし合わせながらそう言おうとしたが、
「せめて、一緒に夜の道を歩こうと思う‥‥」
呟いた葵竜はまた闇の中へと消えるようにいなくなった。
一方、爆風に飛ばされたヒョウは倒れこんだまま意識を取り戻し、目を開いた。
目だけを動かし恐る恐る気配を探ってみる。
彼の視界には化け物も化け物男も居ない事に安堵すると体を起こし、擦り切れたジャンパーを眺めつつ自分の状態を確認した。
ヘルメットを装備していたお陰で若干痛むものの、体は動く事ができる。
とりあえず向こうに転がっているバイクを見つける事が出来た彼は、さっきの男から随分離れているらしいので、今のうちにバイクを拾ってさっさとこの場所から逃げようと思った。
‥‥その時、
「おい、そこのヘルメット‥‥」
と女の声で誰かが呼んだ。
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