3−1 現れた女
澄んだ声でヒョウが振り返ると、目線の先には冷たい空気と闇の中、一人の若い女が立っていた。
「いい天気ねー」
流れる赤い髪に
同い年の沙夜はまだあどけなくて可愛い方だが、ヒョウを見つめるこの女は綺麗と可愛いの両方を併せ持ち、表情の雰囲気は何故か明るい。
‥‥ヒョウは一風変わっているが、少し年上に見えるその女が自分に攻撃しない事にひとまず安心した。
が、女はヒョウの方を見ながら、
「お前はまだ餌になっていないの?」
と突然聞いた。
「餌‥‥あれの?」
エサと言えばさっきの化け物の事だろう、とヒョウは内心背筋が凍るも、少し考える。
この人、こんな暗がりの空でいい天気とか冗談まじりで言うのだから、これ迄の奇妙な出来事は実は手の込んだドッキリなんじゃないか?と勝手に脳内変換をする。
‥‥というか、そうであって欲しい‥‥という願望を込めて、ヒョウは緊張感の無い軽い感じで話しかけた。
「‥‥ねえ、いつからここは野良猫じゃなくて、野良化け物が出るようになったんだろう?」
「さぁ、解らない」
「そうだね。さっきから変でさ、雪降ったり人が化け物になったり土から人が出てきたりしててさー、冗談だよねー。こんな真夜中に。全部夢であって欲しいよ」
「それなら夢と思えばいい」
女はそう冷淡に微笑しながら腰に巻きつけてあった赤い
「このまま夢の中で生きていると思って死ぬのがいいわ」
そのまま赤い
‥‥一変した女の眼は凶器を突きつけられて唖然とするヒョウを睨んでいる。
‥‥冗談じゃないのか‥‥ヒョウは僅かな望みを絶たれて愕然とし、さっきの凶暴な男の事を思い出した。
‥‥まさか、この人も土の中から出てきたとか‥‥‥?
‥‥しかし、俺はまだ食べられたくない‥‥と思ったヒョウは苦しまぎれに抵抗してみる。
「な、何なんだよ冷たい‥‥初対面でいきなりえ、エサになれとか、喧嘩売って夢見ながらし、し ねだなんて」
「だったら優しくしてほしい?」
やたら馴れ馴れしくて挙動不審なヘルメットを被った男に女は冷たく微笑むと、赤い紐を腰に戻しながら歩いて来る。
近寄ると全身から漂う異形の雰囲気と、若い女性ならではの
「私があの化け物を倒してあげるわ」
「ど、どうやって?」
すっとんきょうな表情のヒョウに、女はさらに理解不能な言葉で淡々と答える。
「あれを連れてきたのは私の姉さんだから」
「姉さんって‥‥どこから?」
女はヒョウから離れると一瞬目蓋を伏せ、流し目から空の方を見上げて呟いた。
「ここから遠い星よ‥‥彼らは復讐の為にこの星で蘇り、私は彼らを倒す為に蘇った」
━━その時、ヒョウは空から光が落ちて来た時の、あの金色の髪の青年と一緒にいた女性の事を思い出した。
ヒョウはおどおどしながらも探るように聞いてみる。
「じ、じゃあ、あいつも‥‥?」
「やって来た。問題は、この星であいつの創ろうとする世界を奪われるか、守れるかよ」
‥‥そう答えながら、雪のように降る静かな暗い空を見つめる赤い眼は遠い場所に向けて何かを思うようで、強気に見えると同時に哀しげで、幻想的であった。
ヒョウは違う世界の話を聞いているようで理解不能だ。
そんな二人の間には深い距離があったが‥‥ヒョウは何故かこの女が、自分を殺すとは思えなかった。
なぜか彼女が言った「姉さん」とは誰のことか解ったし、「あいつ」が「あの男」だということも解り、昨日からの出会いが只の偶然とは思えなかったのだ‥‥。
ギャーァアオ!!
すると突然、二人の前に
「あぁっ!」
ヒョウが恐怖の顔で叫んだその瞬間、急に顔色を変えた女は再び腰の革紐を引き抜くと、
一瞬の一撃で
木の陰、崖岩の段の上、建物の奥‥‥女は駆けながら鋭い視線を周囲に向け、暗闇に仄暗く光る数を確認するように眼で数を数えていく。
「‥あ、あれは‥‥」
「あれは
女は進行方向に現れる
緋い
更に女に狙いをつけた
「くっ!!」
四肢を引き掴まれ、囲みながら眼前で牙を剥く
手持ちの
更に一振りで取り囲む
新たな
「はぁっ!!」
叫びながら
一瞬で静から動へと、激しく展開するバトルに
「‥‥!」
それを目の当たりにし恐ろしくなったヒョウは、隙をついて駆け出すや見つけたバイクに乗り込んで一目散に逃走した。
「!!!」
それを見た女は空高く跳んだ。
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