2-2 とある疑問
「葵竜‥‥姉さん!」
━━それから数時間後、都市部隊のアジトに戻ってきた緋翠はその第一声でそこに居る者達の視線を一斉に集めると、葵竜と共に負傷者の看病をしている彗祥の姿を見つけるなり駆け出した。
「緋翠!?」
突然自分の胸に飛び込んだ緋翠に驚く彗祥。姉の体温を感じながらその表情は安心しているようだった。
「無事だったんだ、よかった!」
「‥‥ごめんね緋翠、辛かったわね」
彗祥は甘えるように自分にしがみつく緋翠を慈しむ眼でその髪を優しく撫でる。すると、ふいに顔を上げた緋翠は突然表情を変えた。
「それより姉さん‥‥彼らがあの中に入って行ったって本当なの?」
「本当だ」
割って入った声の主は火是だった。二人のやりとりを部屋の隅で黙って聞いていた彼の口調は重かった。
「異凶徒はすでに燈台の中らしい‥‥とうとうやっちまったってことか」
緋翠が部屋の中を見渡すと、そこに居る残党は異凶徒と戦う前とは比べ物にならない程僅かな数しかいない。さすがにこの状態に辛い心境を見せた火是に、緋翠は愕然とした。
「それじゃ、スタルオが奴らに奪われて‥‥この星が破壊されるってこと?私たちは死んじゃうの?」
「今のところ外から見る限りだとまだ無事だがな」
碧娥と光紫が窓を覗き込みながらそう答えた。彼らが一望する燈台は薄黒い煙が立ち込めてはいるが、依然として花の形をした装飾は輝いている。
「‥‥今から取り戻そうと思えば、間に合うかもしれないが」
それを聞いた緋翠は火是のもとに跳んで行くと、身を乗り出してこう訴えた。
「だったらあの燈台へ行こう。今度こそ奴らを倒すのよ」
「おいおい勝手に決めるなよ。お前はいっつも俺を無視して一人で突っ走る。たまにはリーダーの命令に従え」
赤いガラスのような瞳を向けられた火是は困り果てるように顔を背けるが、すぐに何かを考えると真顔に戻る。
「それに知ってるだろ‥‥問題はそれだけじゃ無いんだぜ」
火是が残りの部隊に目を移すと、目があった彼らは火是を睨み返した。
「おい‥‥あいつが言っていた、刃灰達が捕まったってのは本当なのか?」
彼らが気にしているのは異凶徒の総支配者ルーダーの言葉だった。
彼らは自分たちが殆ど壊滅状態に陥った事よりも、とうとう戻ってこなかった刃灰と彼が引き連れた部隊の事が気になっていた。
「奴らに殺されたわけではないのか?」
「いや‥‥多分人質だ」
「だが、本当にそう思うのか?」
仲間達に心中を探るような視線を向けられる火是。事実は誰も知らなかったし、この出来事は明らかに彼らの中で疑心暗鬼が生じていた。
「どういうことよ‥‥まさか裏切ったっていうの?」
「そうとは言っていない。しかし、奴らがそう簡単に捕まるとは思わないのだ」
「‥‥‥」
火是がこれまでを思い出すと、確かにそう言えないことも無かった。これまで火是と刃灰でやってきた都市部隊は、葵竜が来た時から変わった。
今まで街を守るという名のもとに暴虐武人に近かった彼らが戦いを極力避けるようになり、その事に反発する者もいたし、更に街を立て直す事に積極的な彼が特別視されて人々に好かれるのも益々面白く思わない人間もいた‥‥
だが、その事は本人の手前伏せておいた。
そうすると、そんな気持ちを一掃するように葵竜が言った。
「彼らはまだ生きてるかもしれない。救出しに行けば解る事じゃないか」
「だが‥‥この人数だ。勝てるか解らないぜ」
葵竜にそう言った火是に彗祥が言った。
「大丈夫よ。ここにいるみんなで協力すれば、刃灰達を救えるかもしれないでしょ」
「‥‥そうかもな。確かめれば済むことだからな」
火是は笑うように二人を見た。
今まで一緒だった刃灰は的確に敵を殺し頼りになる存在だったが、それより自分たちをいい方向に持っていったこの二人を信頼していた。
意を決した火是は、向こうへ行き戻ってくると、何かを葵竜の目の前に出した。
「おお‥‥それは!」
それを目にした一同がどよめき出す。それは見たことのない色をした
「これは《スタルオ》に行ける事が出来る銃だ」
「‥‥‥」
「葵竜、これはお前が持っていろ。スタルオはスタルオじゃないと壊れない。
「解った」
葵竜は火是からスタルオの銃を受け取った。
一同はそれを見ていたが、そこにいた部隊は、決まったと言わんばかりに一斉に外に飛び出した。
「これ以上あいつらの勝手にはさせないわよ」
緋翠は見えない敵を見据えるような眼で出ていく。
「そうさ。何人いようが俺たちだけで十分だ」
次に碧娥が笑うような顔で後に続いた。
「‥‥‥‥」
その後に無言の光紫。いずれも一心を持った眼で出ていく彼らに火是は苦笑いをする。
「勝手な奴等だぜ‥‥」
そう呟くと、すでに諦めたように葵竜と彗祥とで顔を見合わせた。
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