日のない星の街

1−1 逃走する

彗祥に化けた仄暗い者グリームを倒し、元の街に戻って来た緋翠は近づいてくる碧娥と光紫に気付いて起き上がった。


「‥‥二人のお陰で助かったわ」


目線を逸らしつつも緋翠から素直に礼を言われた碧娥は意外な表情をすると、思わず真顔でこう言った。


「緋翠、借りを返すのはお前でもいい」


‥‥その後に碧娥は緋翠この女がそんな冗談を通じる女ではない事を思い出すと、言葉を濁すように話題を変える。


「が、お前は俺たちと一緒にいればそれでいい。どうする」


「どうって?」


「征服だ。この星の」


「‥‥何を言っているの?ここはヒョウの星よ」


「またあいつか」


碧娥は緋翠の近くに寄り添っているヒョウを一瞥しながらもこう言う。


「もうそんなガキに肩を持つな。葵竜あいつは俺に化け物グリームを従えと言ったのだ」


「‥‥ 葵竜が?」


「お前は俺たちとこの星か、逆に俺たちと化け物グリームを相手にするのか、どっちを潰していくのかと聞いているんだ」


「嫌よ。私はまだ‥‥」


敵か味方かの選択を迫る彼らに緋翠はムキになって二人を睨むと、光紫が冷たい横目で見る。


「緋翠。選択肢は一つしか無いぞ」


「光紫までそう言うの?」


「俺たちは何の力も無いのだ‥‥葵竜の持っていた《スタルオ》でもあれば別だがな」


「‥スタルオ‥‥?」


《スタルオ》という言葉ワードが出てくると、ヒョウは首を傾げる。

‥‥初めて聞くけど、一体何なんだろう。俺の知らないなのか?

思わずヒョウは「スタルオって?」と尋ねようとした。


が、ふと‥‥

ヒョウが葵竜に二度目に会った‥‥さっきの事が脳裏に浮かぶと、はっとした。


あの時葵竜は瞳の色と同じ、見たこともない光を放つものを手にしていた。


『‥もう必要ない‥‥』


そう言って沙夜に渡したあの石。

あの時は意味が解らなかったが、あれがまさか‥‥。



「緋翠、それってもしかして」


そう言ったヒョウに緋翠は驚いた。


「ヒョウ、何か知っているの?」


「はっきりじゃないけど、多分‥‥」


ヒョウは『スタルオ』があの石なのでは?というきっかけで、あの出来事の真相を判明したいと思うようになっていた。


‥‥緋翠は確かに自分達と違う世界の人だけど、自分には友好的だし、彼女の事で何か協力出来るかもしれない。

自分を線引きしているあの二人とは、今のところ無理だろうけど‥‥


「行こう!」


そう言ってヒョウと緋翠は目を合わせると、早速バイクに向かった。そして去り際に、碧娥と光紫の選択肢にこう答えた。


「私はヒョウと行くわ」


「お前!」


自分の要望には答えず、ヒョウのバイクの後ろに乗る緋翠は叫ぶ碧娥の事など気にもせず、ヒョウのバイクはエンジン音を鳴らす。


「そういうわけさ、バイバイビー!」


半分勝ち誇った顔でそう言い残し、アクセルをふかせると残った二人を尻目に逃走した。


ヒョウは沙夜のことが気になっていた。


そして緋翠は‥‥無意識に心の中で叫んでいた。


必ず、葵竜を捜すわ‥‥‥。




「と言う事は、ヒョウと沙夜って葵竜かれを見たっていうのね」


夜の道をライトを照らしながらバイクを走らせ、ヒョウは緋翠に葵竜と出会った時の事を話した。


「あの時、葵竜は光る石みたいなのを俺と一緒に来た彼女に渡したんだ」


「そうなの‥‥」


「でも、明日沙夜に会えばいいし、取り敢えず家に来ない?家族がいるけど、うちはそういうの気にしないから‥‥」


「ありがとう、ヒョウ」


微笑んだ緋翠にヒョウは思った。どうやら彼らも今の自分の境遇がよく解っていないんじゃないかと‥‥。


彼は少し間を開けて尋ねた。


「‥‥ところで、やっぱり緋翠って宇宙人なの?」


「ヒョウから見ればそう見えるかもね。少なくともこの世界には居なかったわ」


緋翠は、目が覚めるとここにいた、と言った。

知らない世界。姿形は同じ人間だが自分がいたところとは、風景、空気‥全てがどこか違っていた。多分、碧娥と光紫も同じ事を感じたと思うが‥‥。


彼女は少し黙ると思い出すように呟いた。


「私の姉さんは化け物あんなのじゃない」


━━葵竜と姉さんは、誰よりも優しく強かった。私は二人とも尊敬していたし‥‥あの二人は愛し合っていた。


緋翠は過去の記憶を辿りながら‥‥ヒョウに自分がいた星の事を話し始めた。

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