日のない星の街

1−1 逃走する

力尽きたように地上に足をつけた緋翠は近づいてくる碧娥と光紫を横目で見やると、息を切らしたまま、辺りを確認すように目線を周囲に向ける。


悪夢を見たような幻夢の戦いでは息苦しい熱さを体感した緋翠だったが、あちこちに散乱していた仄暗い者グリームの死骸は彗祥の魂を滅ぼしていた仄暗い者グリームを倒してからは浄化されたように異星界へと消えて星がちらちらと瞬きだし、それでも肌寒い闇空は今でも彼ら三人の異質な雰囲気とともにどこか重苦しかった。


「緋翠!」


緋翠とやって来る碧娥と光紫の間に駆け寄ってきたヒョウが割って入ると、心配するような顔が真前に飛び込んだ。


「無事で良かったよ‥‥もう大丈夫なんだよね‥‥?」


「ええ‥‥まだ解らないけど」


「命拾いしたよ‥‥ふーっ!」


冷や汗をかきながら息を吐くヒョウがどこか可笑しくて微笑するも、無言でじっと見る碧娥と光紫に意識する緋翠は‥‥


‥‥以前の勝気な自分なら「頼んだ覚えはない」と突っ撥ねるだろうし、二人もそうくると思っていたが、を片付けたのは自分一人の力ではないと自覚しつつ、俯きながら立ち上がる‥‥


「‥‥二人のお陰で助かったわ。ありがとう」


目線を逸らしながら気まずそうに声を出す緋翠。

それでも素直に礼を言われた碧娥は意外な表情をすると、真顔でこう言った。


「緋翠、借りを返すのはお前でもいい」


‥‥その後に碧娥ははっとし、緋翠この女がそんな冗談を通じる女ではない事を思い出す。


これではせっかくのしおらしさが無碍むげになると、言葉を濁すように話題を変える。


「が、お前は俺たちと一緒にいればそれでいい。‥‥それでどうする」


「どうって?」


「征服だ、この星の。お前は俺たちとこの星か、逆に俺たちと化け物グリームを相手にするか、どっちを潰していくかと聞いている」


「‥‥何を言っているの?ここはヒョウの星よ」


「またあいつか」


碧娥は緋翠の近くに寄り添うように側にいるヒョウを怪訝な顔で一瞥すると、説き伏せるようにこう言った。


「さっきも行ったが葵竜あいつは俺に化け物グリームを従えと言ったのだ。らとは紙一重の立場だが、ここに居る以上どうにかするしかないだろう」


「‥‥‥」


「さっきは化け物を始末したが‥‥もうそんなガキに肩を持つな」


「嫌よ。私はまだ‥‥」


照れ臭さの余り碧娥の初っぱなの言葉を聞き飛ばしていた緋翠はこの世界で自分を仲間とする碧娥の提案に最初黙っていたが、敵か味方かの選択を迫られると駄々を捏ねるように戸惑った。


「緋翠。選択肢は一つだ」


「光紫までそう言うの?」


更に碧娥と同意見の冷たい横目の光紫に非難され、哀訴の目を向ける。


「所詮俺たちはここでは化け物と同じ立場だ。そうするしか無い」


光紫は断定的な言葉を放つも虚空を見るように何かを考えると、厳しさと懐かしさをたたえる目で呟いた。


「‥‥《スタルオ》でもあれば別かもしれないが」


「スタルオ‥‥」


光紫の言葉に緋翠と碧娥も同じように、何かを想うような反応をする。


「‥‥あれは葵竜の持っていた筈だが。そんな物は此処には無い」


「‥スタルオ‥‥?」


《スタルオ》という言葉ワードでヒョウは首を傾げる。


‥‥初めて聞くけど、一体何なんだろう。俺の知らないなのだろうけど‥‥。

思わず「スタルオって?」と尋ねようとしたヒョウは、はっとした。



沙夜と金色の髪の葵竜という青年の事を確かめに陸橋の上へ来たときの‥‥仄暗い光が降る中で現れた彼が瞳の色と同じ、見たこともない光を放つものを手にする姿が脳裏に浮かぶ。


『‥もう必要ない‥‥』


そう言って沙夜が見た夢と同じように渡したあの石。

あの時は意味が全く解らなかったが、あれがまさか‥‥‥。



「緋翠、それってもしかして」


何かに気づいたように声をかけたヒョウに緋翠は驚いた。


「ヒョウ、何か知っているの?」


「はっきりじゃないけど、多分‥‥」


ヒョウは最初関わりたくなかった葵竜が何故か自分達の為に化け物を倒してくれた緋翠達に関係し、『スタルオ』というがあの石なのでは?という空漠から段々と彼女の手助けをしたいという気持ちが湧いたのだ。


‥‥緋翠は自分達と違う世界の人で、最初はちょっと怖かったけど‥‥自分には友好的だし、何か力になれるかもしれない。

自分を線引きしているあの二人とは、今のところ無理だろうけど‥‥


「行こう!」


二人は目を合わせるなり早速バイクに向かうと、緋翠は去り際に碧娥と光紫の選択肢にこう答えた。


「私はヒョウと行くわ」


「お前!」


碧娥はまたも一人で突っ走る緋翠を静止させようと思わず声を荒げるも、緋翠は気にもせずにヒョウのバイクの後部座席に乗る。


「そういうわけさ、バイバイビー!」


エンジン音を鳴らすヒョウは半分勝ち誇った顔でアクセルをふかせ、そう言い残すと残った二人を尻目に逃走した。


二人はヒョウのバイクを追撃する事は無かった。


走りながらヒョウは一人で帰らせた沙夜のことが気になっていた。


そして緋翠は‥‥無意識に心の中で叫んでいた。


必ず、葵竜を捜すわ‥‥‥。






「と言う事は、ヒョウと沙夜って葵竜かれを見たっていうのね」


ライトを照らすバイクは夜の道を走りながら、ヒョウは緋翠に葵竜と出会った時の事を話した。


「あの時、葵竜は光る石みたいなのを俺と一緒に来た彼女に渡したんだ」


「そうなの‥‥」


「でも、明日沙夜に会えばいいし、今日はもう遅いから取り敢えず家に来ない?家族がいるけど、うちはそういうの気にしないから‥‥」


「ありがとう、ヒョウ」


ヒョウの提案に緋翠は微笑むと、ヒョウは少し間を開け、恐る恐る緋翠に尋ねた。


「‥‥ところで、やっぱり緋翠って宇宙人なの?」


「ヒョウから見ればそう見えるかもね。少なくともこの世界には居なかったわ」


緋翠は、目が覚めるとここにいた、と言った。

知らない世界。姿形は同じ人間だが自分がいたところとは、風景、空気‥全てがどこか違っていた。多分、碧娥と光紫も同じ事を感じたと思うが‥‥。


どうやら彼らも今の自分の境遇がよく解っていないんじゃないかとヒョウは思ったが、緋翠は少し黙ると思い出すように呟く。


「私の姉さんは化け物あんなのじゃない」


━━葵竜と姉さんは、誰よりも優しく強かった。私は二人とも尊敬していたし‥‥あの二人は愛し合っていた。


緋翠は過去の記憶を辿りながら‥‥ヒョウに自分がいた星の事を話し始めた。

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