━passage(通路)2

互いの星を繋ぐ異次元の道。その隙間を葵竜と沙夜の手がかりを求め進んでいると、彼らの前に星の数程の魂が現れる。

闇から向かってくる仄暗いグリームへと変貌していくと‥‥‥緋翠達はそこを抜ける為、戦う覚悟を決めた。


大海原の異空間を一直線で突き進むと云う、こんな無重力の世界に三人で化け物と化した者達を相手にする。普通は無理な話だろう。

‥‥だけど、彼らはこんな所で犬死にする気も、負傷する気も無かった。

目の前に漂う緋翠と光紫と碧娥、それにヒョウの姿を捕らえた仄暗い者グリームの群れは、その中で前に進んだ光紫が眼前に剣をかざすのを見ると、剣を振り上げるより先に両手の鋭利な刺を真横から振り上げ、待ち構える。

彼が真っ直ぐ向かってくると予測する仄暗い者グリーム達は、獲物を狙うように鋭利な刺で掻ききろうとしていた。しかし、嘲笑うその顔は紫色の光に気がつくと、仄暗い者グリーム達は眩しさと共に、電光石火の如く斬られていく。

前衛が化獣のような断末魔を上げると彼らの士気は崩れ、そこに猛獣のように突き進んだ碧娥が大気の風と共に大気の弾丸ブラストブレットを次々とぶつける。

仄暗い者グリームは竜巻に巻き込まれたように、無重力の中で揉まれながら吹き飛ばされた。

その反対側でヒョウを庇うように前に立つ緋翠と、高速の速さで来る仄暗い者グリームとの一騎打ちが始まった。

牙を剥き出しに喰らいつこうとする仄暗い者グリームとぶつかり合う直前、竿のように前に延びた鞭竿ウィップ・ロッドは緋色の一閃を斜めに叩きつける。


「!?」


叩き割った仄暗い者グリームから、次々と魂が現れてくる。後方に後退りながらも無数の白い光は緋翠を覆った。


「うぅあっ‥‥!」


呻き声を漏らす緋翠は仄暗い魂に捕らわれていき、身を硬直しながら苛まれていく‥‥咄嗟にヒョウが叫んだ。


「緋翠!」


《スタルオ》を手に近づくヒョウに白い魂は何故か離れていき、緋翠は自我を取り戻した。

だが仄暗い者グリームは次々と向かってくる。緋翠は大きく振った鞭竿ウィップ・ロッドで軌道から外れると更に襲いかかる仄暗い者グリームに狙いをつけた。


「はぁっ!!」


まるでリボンのようにクルクルと回転させた鞭竿ウィップ・ロッドを気合を込めて一気に繰り出すと、硬化したドリルのように直撃し仄暗い者グリームが砕け散っていく。

緋翠はさっき受けた仄暗い魂のせいで心に闇が残ったままだった。


「緋翠、ここで優しさは不要だ」


荒く呼吸をする緋翠の横に忽然と現れた光紫は両手で機械の剣マシンソードを背に構えながら呟く。彼もまた闇を受けた顔をしている。


「解ってる。‥‥でも、気づいたわ」


「何がだ」


光紫がまた姿を消すと、どす黒い顔をした碧娥が緋翠の横に並んだ。


「私はヒョウと一緒にを突っ切る」


「またそんな無謀な事を考える。そんな事をしてヒョウそいつは無事なのか」


「ヒョウが持ってる《スタルオ》は僅かでも彼らの魂が襲うのを防ぐ事が出来るの。だから‥‥」


どちらも長い髪がこの世界でなびいている。碧娥は「そうか」と言うと、笑みを浮かべた。


仄暗い者やつらの魂も残さず全滅させようと思ったが‥‥その方が手取り早いな」


「光紫」


緋翠は光紫に声をかけると、彼は横目で緋翠に目を向ける。


「早く此処から抜けたいから、一気にやるわ」


「解った」


光紫はそれに承諾するとまた消えるように向こうへと行く。


「行くわ、ヒョウ」


緋翠にそう言われヒョウも覚悟した顔で頷くと、三人は更に来る仄暗い者グリームへと同時に動いた。

光紫は無重力で機械の剣マシンソードを発動すると、光が暗闇に裂け目を作りながらほとばしり、碧娥が轟音と共に大気の弾丸ブラストブレットを撃った。

弾けようとしていた世界の全てを覆い、異次元は大きな渦となると、緋翠はその中にヒョウと共に飛び込んだ。


向かってくる仄暗い者グリームの攻撃を避けながら幾つもの緋色の一閃を飛ばすと、飛燕のように弧を描きながら仄暗い者グリームを次々と斬りつけていく。


魂の渦を通り抜けていく中で、緋翠は仄暗い者かれらは自分と同じだろうと思った。同じ狂気と苦悩を持った魂。

‥‥緋翠は何故か心が痛かったが、その先の違う輝きを目にすると━━━。


彼女は突然驚くように表情を変えた。この先に‥‥全てを動かす《スタルオ》が‥‥沙夜がいる。

そう思った途端━━━、


「私は、先に行くわよ!!」


緋翠は鞭竿ウィップ・ロッドをばねにするや空中に身を躍らせ、幾万の亡霊の星の世界をヒョウと共に加速しながら駆け抜ける。


「緋翠ーーー!!」


碧娥は叫んだ。

だが‥‥気がつくと、二人は闇の中へと呑み込まれていった━━━。




それから、どれだけ時間が経ったか解らない。ヒョウは、無意識に眼を開いた。

よく解らない雑音の中で自分の鼓動だけが聞こえ‥‥前のめりだった状態から上半身を上げると、すぐ近くに緋翠が倒れていることに気付いた。


「‥‥緋翠‥‥緋翠!」


彼は緋翠の名を何度も呼んだ。しばらくすると彼女は眼だけをヒョウに向ける。


「‥‥ヒョウ‥‥ここは‥‥‥‥‥」


ここがどこだか解らない。‥‥異次元のはずであるが、今はあきらかに地面の上にいる。

空には星、星、星。星の平原に漂うようであったが二人はふと、はっと何かを見上げた。

そこには、星幻の世界に立つ青年━━━。




そして、緋翠は葵竜に会った。

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