1-2 運動場の隅っこの木の下で
その後大一達とは別れ、待ち合わせた信念の銅像から移動したヒョウ達。
間隔を開けて運動場を取り囲む、立ち木の間に置いてあるベンチに座った沙夜は目の前に並んで立つヒョウと緋翠をすました顔で見ている。
そんな彼女にヒョウは隣の緋翠に目を促すと改まって口を開いた。
「実は、昨夜会ったあの男は‥‥本当に宇宙人だったんだ。ここにいる緋翠も」
「ぇえっ!!どゆこと?」
あっけらかんとしたようなヒョウのカミングアウトに沙夜は素っ頓狂な声で驚いた。
元々葵竜の夢を見た沙夜が、その夢と同じ人物に実際会ったというヒョウに真相を確かめたいと言ったのがきっかけで二人は同じ現場に向かったのだがそれが本当に宇宙人だったという突拍子もない展開になっていたとは思いもよらなかった。
「昨夜沙夜ちゃんはあの男‥‥葵竜という男から光る石みたいなのを貰ったけど、君を先に帰らせたのは嫌な予感がしたからなんだよ。その後街ではいろいろ事件があったし‥‥」
化け物や碧娥達の事は言わなかったが沙夜と別れた後、出会った緋翠が葵竜と関係があったのだと告げる。
「あれは
「そうだったの。緋翠さんの星に関係していたのね‥‥」
ヒョウのざっくばらんな説明を聞いた後、しばらく唖然とした様子の沙夜。
すると自分の懐から何かを取り出した。
手にしたのは
そんな緋翠に沙夜は
「私は緋翠さんの星とは無関係だし、緋翠さんが必要だと言うのなら‥‥これは緋翠さんにお返しします」
‥‥それを渡され、手にした緋翠は葵竜の瞳のような輝きを持った《スタルオ》をまるで魅入ったように眺める。
「緋翠‥‥光紫はあの時、《スタルオ》さえあえばどうにかなるかもしれないって言ってたけど」
「ええ」
ヒョウの問いに確証も無くそう答えるも、緋翠の脳裏にはとある思いが過っていた。
葵竜はこの
「緋翠‥‥。どうしたの?」
どこか懐かしいような目で《スタルオ》を見ている緋翠にヒョウはそう聞くと、緋翠はぽつりと言った。
「これには、姉さんの魂が入っている筈なのよ」
「えっ!?」
「━━姉さんがあれに喰われて魔物と一体化しても、葵竜は姉さんの心をこの中に封じ込めた筈だった。だから私はあの
もう必要ないって‥‥本当に‥‥?
色々思いを巡らせている緋翠を見ながら、ヒョウは別の疑問を投げかける。
「でもどうして、沙夜があんな夢を見たせいでこうなったのだろう」
そう聞かれ沙夜は首を振る。
「‥‥あんな夢を見たのも、
それにはそこに居る誰もが謎だった。だって彼女は何も関係のない、至って普通の少女だったから。
だが沙夜はあの時‥‥朧のように存在する美しくも悲しげな顔の葵竜から受け取った
それは星程の計り知れない力があるのだろうが‥‥そんな事は彼女が知る由も無い。
「まあ‥‥これは緋翠の星の物なんだし、君が持っていて良かったんだよね」
何故沙夜にあんなことをしたのか全く意図は掴めないが、葵竜から貰った物なんて気味悪いし‥‥早々に手放して欲しかったのもあるけど、緋翠の姉さんの曰く品なら彼女が持ってた方が良いだろう‥‥
ヒョウがそう思っていた矢先、緋翠は二人に目を向けた。
「二人とも、心配かけさせてごめんね」
「いや、いいんだよ。沙夜ちゃんが無事なら‥‥」
即答のヒョウはへらっと笑い、これで一件落着のような顔をする。
「そうなんだ?」
そんなヒョウの顔を隣の沙夜がふいに覗き込む。
「私も‥‥ヒョウ君の事、心配したのよ」
沙夜に見つめられたヒョウは思わず視線を逸らすと、それを見た緋翠は思わず微笑ましい眼になる。
ヒョウは照れながら頭を掻くと緋翠の方を向いた。
「じゃあ、緋翠はこれからどうするの?」
「私は‥‥」
この星での動向を心配し尋ねるヒョウに緋翠は何かを言いかけて黙ると、沙夜も身を乗り出して進言した。
「私も何か出来る事があったら手伝うわ。ヒョウ君と一緒に‥‥」
ヒョウも手助けしたいと沙夜と同調するように緋翠の顔を見る。
だが目を綴じた緋翠は二人に背を向けた。
「でも、それは私たちにしか関係の無いことよ」
そう言って彼女は振り向くと、笑顔で言った。
「ありがとう、ヒョウ。もう迷惑はかけないわ」
「‥‥緋翠」
緋翠は、ぼんやりと見つめる二人を残しそのまま去った。
「ヒョウ君、行かなくていいの?」
「‥うん、大丈夫だと思うけど」
緋翠のことを心配する沙夜に、ヒョウは相変わらずあっけらかんとした感じだった。
彼女なら心配無いだろう。緋翠は宇宙人で、最初怖かったけど‥‥。
「なぜか彼女とは、二度と会わないことは無いと思うんだよ」
「そうなの。まるで友達みたいね」
微笑んでいる沙夜は澄んだ瞳で遠くの景色を見つめる。
運動場と校舎の向こう、日が暮れ初めた空‥‥ヒョウは、いつの間にかすぐ隣の沙夜を意識していた。
柑橘系のような自然な甘い香りが隣から匂う、ちらっと見ると蜜柑みたいな唇で笑っている少女の姿、何故か可憐だと思った。
二人は隅のベンチにそのまま座っていた。木漏れ日が射す影の下で、現実的な世界の時間は止まっているかのように‥‥
学校を出た緋翠はさっきまでのことを思い出していた。
ここで初めて会ったのはヒョウで、彼とは昨日会ったばかりの普通の少年だったが、そんな彼が嫌いでは無い。
彼は「これからどうするの?」と聞いたけど‥‥。
でも、それは自分一人の問題で、やるべき動向は決まっていた。
私は葵竜を探す。
《スタルオ》を握り締め、彼らを断ち切る思いでもう一度校舎の方に振り向く。そして行こうとしたその時━━緋翠は目を疑う
学校の窓に映ったのは廊下をゆっくりと歩く、不気味な姿‥‥‥。
「━━
ヒョウと沙夜が危ない!そう直感した緋翠は踵を返し、今来た道を戻り走った。
同じ頃、ヒョウと沙夜が眺めていた静かな校舎の風景にも低い叫声が響き、それまでほのかに甘い雰囲気だった、時が止まるような二人の時間は突然破壊された。
「な、何!?今の」
聞いたこともない声に不安な顔で辺りを見回す沙夜。ヒョウは昨夜も聞いたこの化け物の声に一瞬で恐怖に変わる。
「あ‥あれは」
突如現れた
「きゃああ!!」
「逃げよう!」
ヒョウは沙夜の手を取り一斉に走り出した。
息を切らせ、困惑する沙夜の手を引くヒョウ。
「くそっ、まさか学校に化け物が来るなんて思わなかった‥‥」
「ど‥どういう事なの?」
「とにかく、あいつに捕まったら終わりだ!」
二人は
急停止した二人は挟み討ちから逸れるように体育館の方へと向かった。
体育館に入った二人。辺りを見回したヒョウは、カゴに入っていたバスケットボールを見つけるやそっちに駆け寄る。
「来るなぁ!!」
ボールを手に死に物狂いでぶん投げ続けるも微動だにしない二体の
「ヒョウ君!」
気がつくと沙夜は新たな
バイクがあればすぐ逃げられたのに‥‥と悔しがるヒョウは心の中で叫ぶ。
行くな━━沙夜を狙うな!!!
沙夜は三体の
「やめろぉ!」
ヒョウが叫んだその時━━燕のように飛び降りて来た緋翠は長い髪を靡かせ、緋い
連続で三体もの
「まだいるわ、二人は安全なところに行って!」
叫んだ緋翠は校舎の中に駆けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます