3−2 再会
バイクに跨るヒョウは、一刻も早くこの陰惨な界隈から抜け出す為に一目散に逃走した。
突如現れた、人を喰う雪から出来た不気味な
それまでは平凡で地味だったけど、平和な日常だった。
俺は何かの間違いで異世界に来てしまったのでは?と錯覚するも、いや、来たのはあいつらだった‥‥という事を思い出す。
とにかく、この悪夢から脱出したい!誰か、誰か、俺を現実の世界に帰して!!
そんな事を心の中で叫びつつバイクでひた走るヒョウは、恐怖を打ち消すようにアクセルを全開し、今1番の速度で飛ばしていく。
すると、何かを見たヒョウは顔色を変えぎょっとする。
「!?」
突如彼の走る進行方向に『さっきの女』が舞い降り、道路のど真ん中に着地したのだ。
ガン見する緋色の眼は遠くからでもヒョウの視界を離させない。
そして何かの映画の如く、ゆっくりと立ち上がると━━女は声を上げた。
「ちょっと、止まりなさい!」
このまま無視しても、この人は追いかけて来て、俺をあの鞭でシバくだろう!
キキィイイイィーーー!!
急ブレーキをかけたバイクは音を立てて女の真前で停まる。
ヒョウはバイクの横へと近づく女に恐怖で慄くも、平常感を装いながらヘルメットごしに呼び止めた理由を人事のように尋ねる。
「な、何ですか、いきなり前に出て!」
「用件があるから止めたのよ」
「よ、用件とは‥‥?」
「取り敢えず乗せて」
━━ヒ、ヒッチハイクか!?女は言うなりヒョウのバイクの後ろに乗ると、怒りの形相でヘルメットの後ろからはみ出ている髪をむんずと握り掴んだ。
「一人で逃げるなんていい度胸じゃない、このおさげ頭!」
最初敵か味方か解らず接してみた女はやたら馴れ馴れしいくせに素顔も見せず、人が
憎々しげにヒョウのヘルメットに手をかけるとズボッ!という音と共に一気に引き抜いた。
「ウガッ!」
「何よ‥全然怪しくないじゃない!」
出て来た素顔は顔を引きつらせている、自分より年下の一般的な少年だった。
それが余りにも普通で意外な顔をする女。
「そうだろ‥‥僕は、全然怪しくありません。
普段は横切った猫に不安を打ち明けるような普通の人間ですから‥‥」
言われの無い横暴を受けたかのようにか弱く言葉を漏らすヒョウに、女は一転して弟を見るような明るい眼差しで詫びた。
「ごめんね。‥‥この星の事を知らなかったし、君の事、もっと悪い人間だと思って警戒してたわ。私の名は
「俺の名はヒョウです‥‥俺も、突然君みたいな強い人が現れて、驚いたんだ」
話が通じると解ったヒョウは、更に提案してみる。
「取り敢えず、ここから他の場所に行きませんか?さっきのがまた現れたら危ないし‥‥」
この一見合わないであろうバイクに乗った普通の少年ヒョウと、どこかの世界の緋翠という名の戦う女はいつ化け物がいつ出てくるか解らない状況の中を一か八かで協力する事にし、二人はヘルメットを被るとバイクを疾走させた。
「これに人を乗せるのは私が初めてなの?」
それから緋翠は気を許したのか、ヒョウをいじり始めると彼は照れ笑いしながら答える。
「いえ、二人目です。‥‥それより、これってどういう状況なのか緋翠には解るの?」
「今は説明してる暇は無いけど‥‥さっきの
夜の風を受けながら緋翠はそう言う。
すると、彼女は何かを察知した彼女は一点を見つめながら、突如燃えるような感情へと変わった。
「それにあいつらもいるし‥‥」
「えっ、あいつって?」
何の事か解らずヒョウが聞くと道路の直線上‥‥二人の進行方向に、さっきの上半身裸男の姿が見えたのだ。
「げっ、あいつは!」
馬っぽい骨格をしたごっつい長い顔の(
「いいから走るのよ!」
緋翠が叫ぶとヒョウのバイクはアクセルを全開にした。
ブウゥゥウウン!!
「おまえは!」
自分の横を秒で通過していくバイクに気づく碧娥。
彼は、その後ろに乗っている‥‥流れる赤い髪の女とヘルメットごしに一瞬合った目が、「笑って」いるのに驚いた━━。
「緋翠!」
叫ぶなり走り去っていくバイク。
それを目で追う方も何を思ったのか破顔すると‥‥立ち尽くす男に重い風が吹いた。
右腕に力を込め、それが体から湧き上がる『氣』となると、消え征くヒョウのバイク目掛けて何発もの
「わぁああぁあー!」
サイドミラーに映る、背後から迫る暴風と砲弾音。
ヒョウのバイクは弾丸のように狙ってくる
━━ようやく撒いたか?
二人が振り切ったかと安堵したのも束の間だった。
彼らの目の前にもう一人、待ち構えていた《三人目》の男に緋翠は声を漏らした。
「━━光紫!」
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