第32話

☆☆☆


その日の放課後。



掃除当番を押し付けられた俺はいつものように帰るのが遅くなってしまっていた。



1人で教室掃除を終えて、廊下へ出る。



太陽は少し傾き始めていて足早に階段を降りていたそのときだった。



前方に彼女の背中を見つけて俺の鼓動は早くなった。



彼女も今帰りみたいだ。



しかも1人。



声をかけることができる!



プレゼントを渡したときと同じように勇気を出しそうとしたときだった。



保健室から1人の女子生徒が出てきて、彼女に声をかけたのだ。



『よっちゃん、今帰りなら一緒に帰ろうよ』



『うん、いいよ』



邪魔をされて軽く舌打ちをする。



でも彼女は優しくて友人をないがしろにするような子じゃないから、仕方がなかった。



俺は黙って2人の後をついて歩く。



行き先は同じ昇降口だからだ。



『よっちゃん今日誕生日だったよね。これあたしからのプレゼント』



ポケットから取り出したのは小さな箱だった。



『あ、ありがとう!』



『前によっちゃんが欲しいって言ってたサンサン宝石のイヤリングだよ』



『うそ、ありがとう嬉しい! あれって千円くらいしたでしょ? いいの?』



『いいのいいの。よっちゃんにはいつもお世話になってるんだから』



彼女は嬉しそうに箱を受け取る。



やっぱり、女の子だからキラキラとしたものが好きみたいだ。



俺もそういうものを用意できたらよかったのにな。



『それよりさ、まだ持ってるんでしょう? アイツからもらったエンピツ』



その言葉に俺は息を飲んで咄嗟に壁に身を寄せて隠れていた。



『あ、そうだった』



彼女は思い出したように立ち止まり、カバンからエンピツを取り出した。



それにはリボンがかけられていて、どう見ても俺がプレゼントしたものだった。



彼女はそれを廊下に設置してあるゴミ箱に捨てたのだ。



『カバンの中も消毒したほうがいいよ。汚いから』



『わかってる』



『よっちゃんって、どうしてあいつに優しくしてるの? 嫌いなんでしょう?』



『だって、先生に仲良くしてあげてねって言われたんだもん。教室内だけでも、それっぽくしておいたほうがいいでしょう?』



彼女は苦笑いを浮かべている。



聞き耳を立てている俺は徐々に鼓動が早くなり、嫌な汗が流れていくのを感じていた。



これが彼女の本性か?



本当は俺のことを見て笑っていたのか?



いや、そんなことあるはずない。



だって彼女は俺のことが好きなはずだから……!!


☆☆☆


数日後、俺は一人で昇降口に向かう彼女を見つけて、後ろから声をかけていた。



今度は邪魔も入らなかった。



『あ、あのさ』



俺の声に振り向いた彼女は一瞬顔をしかめた。



しかし、すぐに笑顔になる。



『どうしたの?』



首をかしげて聞いてくるその姿はすごく可愛くて、やっぱり俺は彼女のことが好きだと感じた。



だから独占したかった。



俺だけの彼女にしたかった。



他の汚い連中に感化されることのない彼女でいてほしかった。



『今日の夜、みんなと肝試しをするんだけど、一緒にどう?』



『肝試し?』



『うん。学校に集合なんだ』



『そんな話、聞いてないけど』



『君は怖がりだから、呼ぶのをやめようってことになったんだ。でもそれって仲間はずれだろう? そういうの、よくないと思ったんだ』



俺の言葉に彼女は眉間にシワを寄せた。



俺の言葉が本当かどうか、考えているみたいだ。



『本当に、みんなもくるの?』



『来るよ』



俺はクラスメート数人の名前を出した。



みんな彼女と仲のいい連中の名前だ。



すると彼女の緊張は少し解けたようで、自然な笑顔になった。



『わかった。それじゃあたしも参加する』



『夜の9時に校庭に集合だよ。来られる?』



『そのくらい簡単だよ』



彼女はそう言うと、俺に背を向けて歩き出したのだった。

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