第35話~夏美サイド~

事件解決から一ヶ月が経過していた。



長野から戻ってきた両親はあたしの身の回りで起きたことに驚愕し、裕也はずっと寄り添ってくれていた。



心と彩の2人は予定通り病院を退院していたが、相変わらずあたしと関わらないように言われているようだった。



そして、犯人である尾崎順はあの時警察官に逮捕された。



誘拐、監禁、名誉毀損。



そのほか様々な刑法が適応されるらしいけれど、そんなこと今のあたしには興味がなかった。



一度ストーカーに植え付けられた恐怖は簡単には消えてくれない。



学校に登校するようになってからも、あたしは毎日裕也に送り迎えをしてもらわないといけなくなっていた。



「ごめんね裕也、迷惑ばかりかけて」



「別に。俺は夏美と一緒にいられるから嬉しいけど」



そう言ってもらえるから、少しだけ安心することができた。



「ちょっと夏美、元気出しなよ」



声をかけてきたのは心だ。



両親からあたしと仲良くしないように言われていても、今は学校内だ。



親の目が届かない場所では普通に接してくれている。



「そうだよ夏美。あたしたちがついてるからね」



彩も、あんな目に遭ったのに相変わらず一緒にいれくれる。



みんながいてくれたら少しずつ前を向けるような気がする。



自分の席に座って教科書をしまっているとき、クシャッと小さな音がして首をかしげた。



一度教科書を引き出して中を確認して見る。



机の奥に何か紙が入っているのがわかった。



クシャクシャになったソレを引っ張り出すと、ノートをちぎったものだった。



なにこれ?



教科書をしまって紙を伸ばしていく。



「え?」



スッと血の気が引いていくのを感じた。



咄嗟に教室内を確認するけれど、そこにはいつもの風景が広がっているばかり。



だけど、あたしの心臓は早鐘を打ち、呼吸が荒くなってきていた。



あいつはここにはいないはずだ。



それなのに、どうして?



「どうした?」



あたしの異変に気がついた裕也が近づいてくる。



あたしは咄嗟に紙を机の中に押し込んで隠していた。



裕也の目を直視することができない。



気持ちが悪くて吐いてしまいそうだ。



「なんでもないよ」



あたしは無理に微笑んで答えた。



裕也がまだなにか言っているけれど、聞こえなかった。



周囲の喧騒が遠ざかっていく。



あたしの脳裏にはさっきみた文字が何度も往復していた。



そして、それはあの男の声になって脳内に鳴り響いていた。



愛してるよ、なっちゃん。



それは真っ赤な血文字で書かれていたのだった……。





END

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