第17話~夏美サイド~
夕食を終えて、リビングのソファに座ってひとりでテレビを見ていた。
テレビを見ながらも、ついつい手はスマホへと伸びてしまう。
テレビを見ながらSNSを確認するのは、もう生活の一部になってしまっていた。
1時間前に投稿したカレーの写真には心と彩の2人もいいねしてくれていて、気分がよくなっていた。
やっぱり女子力高めの投稿はみんなの気を引くことができるみたいだ。
鼻歌気分で自分のインツタを確認していると、気になるコメントがきているのを見つけた。
《今から行く》
ただそれだけの文章に、時間が停止した気がした。
今から行くってどういう意味だろう?
他の人のインツタと間違えてコメントしたんだろうか?
首をかしげて相手のハンドルネームを確認してみると、ジュンだった。
ここ最近毎日コメントをくれている人だ。
でも、今までこんな妙なコメントは来なかったはずだ。
なんとなく嫌な予感がしてあたしはスマホを握り締めたまま家の戸締りを確認した。
帰ってきてから外へ出ていないから、ちゃんとカギは閉められている。
裏口も窓も大丈夫そうだ。
ホッと息を吐き出してリビングに戻り、もう1度コメントを確認した。
さっきのコメントはまだ残されていて、間違いなく《今から行く》と書かれている。
なにかを遠回しに伝えようとしているんだろうか?
そう考えてコメントと投稿写真を交互に確認してみても、ピンとくるものはない。
もし、この文面通りだとすれば、ジュンがここへ来るということになるけれど……。
そんなことはありえない。
ジュンが男か女かもわからないし、あたしの住所だって知らないはずだ。
家まで来れるわけがない。
そう思いながらも、心臓は早鐘を打ち始めていた。
もし、万が一、知られていたら?
制服姿で撮影しているし、学校風景も写真に撮っている。
それらから特定されていたとしたら?
途端にネットの恐怖が目前まで迫っている気配がして、スマホを投げ出していた。
裕也が気にして、何度も忠告してくれたことを思い出す。
その度にあたしはこれくらいみんなしているから大丈夫だと思い込んで、軽くあしらっていた。
裕也は少し気にしすぎなのだと。
でも……そう思ったとき突然玄関のチャイムが鳴ってあたしは息を飲んだ。
時刻はまだ8時前で、来客があっても不思議じゃない時間だ。
だけどあたしは息を殺してインターホンカメラを確認した。
カメラに写っているのは見たことのない男の姿だ。
髪の毛は伸び放題でボサボサ。
顔にはヒゲが生えていて、かなり痩せている。
一見して普通ではないのはわかった。
浮浪者とか、そういう人に近い存在だ。
こんな知り合いあたしにはいないし、両親の知り合いでもなさそうだ。
誰……?
緊張してゴクリと唾を飲み込む。
男はカメラに気がついた様子で視線をこちらへ向けてきた。
つりあがっため。
血走った白目。
そして歪んで微笑んだ口元。
それらを見た瞬間背筋がゾクリと寒くなり、モニターから離れていた。
足音を殺してテレビと電気を消し、ソファの影に身を隠した。
心臓はドッドッと早鐘を打ち、その音が外にいる男にも聞こえてしまわないか、不安になるほどだった。
何度かインターホンが鳴ったが無視していると、玄関から足音が遠ざかっていくのが聞こえてきた。
モニターを確認すると、男が帰っていく姿が映っている。
モニターからその姿が完全に消えると、ホッと息を吐き出してその場に座り込んでしまった。
両親がいないタイミングでこんな経験をすることになるとは思ってもいなかった。
でも、安心してはいられない。
男の正体はわからないままだし、あたしはこれから3日間ひとりでこの家にいなきゃいけないのだ。
そう思うと不安は膨らんでいく。
「どうしよう。誰かに相談しないと」
考えてすぐに浮かんできたのは裕也の顔だった。
裕也はいつでもあたしのことを心配してくれているし、男だから力もある。
そしてなにより一緒にいても大丈夫だと信用できる相手だった。
あたしは覚悟を決めて裕也に電話をした。
『どうした?』
数コール目ですぐに電話に出てくれた。
「ゆ、裕也。あのね、今、なんか知らない人が家に来て」
自分で思っているよりも自分は慌てているみたいで、順序だてて説明することが難しい。
もどかしい気持ちになっていると『なにかあったんだな。今からそっちに行ってもいいか?』と、裕也に聞かれた。
電話越しなのに、あたしは何度もうなづいた。
『わかった。俺が行くまで絶対に玄関を開けるなよ』
裕也はそういって、電話を切ったのだった。
☆☆☆
それから裕也が到着するまで、あたしは電気もつけずに息を殺していた。
いつまたあの男が戻ってくるかわからない。
そう思うと怖くてトイレにも行けなかった。
そして裕也から玄関前まで来たと連絡が来たとき、大慌てで外へ駆け出していた。
目の前にいる裕也にそのままの勢いで抱きついてしまった。
「おい、大丈夫か?」
裕也はとまどいながらあたしの体を抱きとめた。
「大丈夫……だと思う」
ハッキリと返事はできなかった。
今のところなにも危害はないけれど、恐怖はしっかりと植えつけられていた。
「とにかく家に入れてくれないか。話はゆっくり聞くから」
「うん」
あたしはうなづいて、裕也を家にあげたのだった。
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