第16話

痛みに顔をしかめながらゴミ袋の中を確認してみると、父親宛のハガキが入っていることにきがついた。



それを取り出すと督促状だった。



父親は俺からハガキを奪い取るとすぐそばに胡坐をかいて座った。



そんなに大切なものだとは思えないし、本当にそんなに大切ならちゃんと保管しておけばいいのに。



そう思い、つい睨みつけてしまった。



それを目ざとく感じ取ってこちらへ視線を向ける父親。



咄嗟に視線を外したけれど、遅かった。



「なんだその顔は!」



バカの一つ覚えみたいに怒鳴り声をあげ、俺の横腹を蹴り上げる。



俺はうめき声を上げてまた倒れこんだ。



どれだけ殴られたり蹴られたりしても痛みになれない自分の体がうらめしい。



少しでもマシだと感じられるようになれば、どれほど楽だろうか。



「バカにしやがって……」



どうやら今日は会社でよほど嫌なことがあったみたいだ。



こういう時には近づかないほうがいい。



俺は這うようにして自分の部屋へと向かった。



なっちゃんに会いにいけないのは残念だけれど、今日は諦めてもらうしかない。



「どこに行くんだよ。まだ話は終わってねぇぞ」



父親に足首を掴まれて「ヒッ」と小さく悲鳴を上げてしまった。



そこも、幼い頃に父親に折られたことのある場所だった。



宿題をしようと部屋に向かう途中で引き止められ、迷惑そうな顔をしただけで足首をへし折られたのだ。



もちろん、俺が骨折したって病院には連れて行ってもらえない。



父親が拾ってきた木片を骨折した箇所に当てて、包帯でグルグルに巻いておくのだ。



それだけでくっついた骨はいびつな形をしているのが、表からでもわかった。



「べ、勉強をしないと」



震える声で言うと、父親は疑わしそうな表情を俺へ向けた。



「お前、最近なにしてる」



「な、なにも……」



答えるやいやな、今度は腹を蹴られた。



ほとんどなにも食べていないのに、胃がギュッと締め上げられて透明な胃液を吐いた。



「嘘つけ! お前見てたらなにかよくないことをやってるって、すぐにわかるんだ!」



父親の顔が真っ赤に染まっていく。



まるで赤鬼みたいだ。



咄嗟に殺されるという恐怖がわきあがってきた。



父親の目は俺を見ていない。



父親の目に映っている俺は、ただの獲物だ。



これから狩って、そして食べられる。



ここから逃げないと……!



湧き上がる焦燥感に急かされるように、俺は父親の体を突き飛ばしてした。



そのまま自室へ駆け込み、自分でつけた簡易的な鍵をかけた。



父親がすぐにヘアのドアを開けようとする。



あのバカ力だ。



いつかドアを破られてしまうかもしれない。



そうなる前に脱出しないと、俺は本当に殺されてしまう。



俺は窓を開けて、シーツの端を机にくくりつけた。



長さは短いけれどそのまま飛び降りるよりはマシなはずだ。



両手でシーツをいつく握り締めて、体を窓の外へ出した。



夜風が冷たく頬をなでていく。



うまく塀の上に足をかけることができて、シーツから手を離した。



ここからは時間の勝負だ。



俺は塀から飛び降りて駆け出した。



行き先はひとつしかない。



学校にも家にも居場所がない俺の、たったひとつの居場所。



誰も認めてくれない俺を認めてくれる子がいるところ。



なっちゃんの家だ……。

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