第18話

それから、あたしは今日の出来事を裕也に説明した。



両親は長野に行っていていないこと。



今日から3日間ひとりでこの家にいること。



その途端に見知らぬ男が家に来たこと。



「まるで見計らってたみたいだな」



裕也は真剣な表情で呟く。



一気に話をして多少気持ちが落ち着いたあたしは、キッチンに立って2人分の紅茶を入れて戻ってきた。



せっかく来てくれたのに、なんのおもてなしもしていなかった。



「男の映像は残ってるか?」



「うん」



あたしは裕也に録画されているモニター映像を見せた。



「見たことのないヤツだな」



「あたしも、知らない人」



「ということは、SNS絡みかもしれないぞ」



裕也は腕組みをする。



「むやみに自分の写真を上げたのが原因かもしれない」



言い返すことができなかった。



そうかもしれないと、なんとなく感じていたから。



「とにかく、今日は俺がここに泊まって行くから」



「え?」



予想外の言葉にあたしは瞬きをして裕也を見た。



確かにここへ呼んだのはあたしだけれど、まさか泊まって行くことになるなんて思ってもいなかった。



「当然だろ? もう夜遅いんだし、1人でいさせるわけにはいかないだろ」



そんなカッコイイことを言われたら、なんだか胸の奥がキュンッとしてしまう。



慌てて左右に首を振って裕也にときめくなんてありえないからと、自分をしっかりと保つことにする。



状況が状況だから、ついかっこよく見えてしまうんだ。



「そ、それならなにか食べる? あ、ご飯は食べてきた?」



慌ててしまって早口になる。



冷静になろうとしても、なかなか難しかった。



「まだ食べてないんだ。なにかあるのか?」



「カレーならあるよ」



「これ、夏美が作ったのか?」



鍋の中を覗き込んで裕也が聞いてくる。



「うん。カレーは簡単だからね」



「でもすげーじゃん! ちゃんと定食やの娘やってんだなぁ」



妙なとことに関心する裕也につい、笑顔がこぼれた。



さっきまで感じていた恐怖心も少しだけ消えている。



「準備するから、座って待ってて」



あたしはそう言うと、鼻歌交じりにカレーを温め始めたのだった。


☆☆☆


裕也と一緒にいる間、あたしはスマホの電源を落としていた。



普段は会話をしながらでもスマホをいじってしまうけれど、裕也と一緒なら自然とスマホから遠ざかることができた。



それくらい、2人でいる時間が楽しかったんだと思う。



気がつくと窓から差し込む太陽の光が眩しくて、リビングのソファでそのまま眠ってしまったのだと気がついた。



裕也は床で、ブランケットをかけて寝ている。



裕也を起こさないようそっと起き上がり、洗面所で自分の顔を確認した。



手串で軽く髪を整えていると、気配を感じた裕也が起きて近づいてきた。



「おはよう」



まだ眠そうな顔で声をかけてくる裕也の髪の毛は見事に跳ねている。



思わず笑いながら裕也を鏡の前に立たせて、自分のブラシで裕也の髪の毛を整える。



「すごい跳ねてる」



「寝癖ばっかりつくんだよ、俺の髪」



裕也はうっとうしそうに前髪をつまんで呟く。



裕也の髪の毛は女の子みたいに細くてサラサラしている。



カールさせようとしてもつむかしいが、寝癖だけはしっかりつくという髪質をしているようだ。



寝癖直しのスプレーを使ってどうにか裕也の髪の毛を綺麗にして、あたしたちはキッチンへ向かった。



とにかく何か食べて、それからだ。



あたしは冷蔵庫から卵とウインナーを取り出した。



ご飯は昨日のうちにタイマーセットをしておいたから、ちゃんと炊けている。



「俺も手伝う」



というので、炊飯器のご飯を混ぜてもらうことにした。



こうして2人でキッチンに立っているとなんだか新婚さんみたいな気分になって、気恥ずかしい。



目玉焼きと炒めたウインナーをそれぞれの更に乗せて、簡単な朝食の完成だ。



「本当に、夏美って料理上手だよな」



ウインナーを一口食べた裕也が目を丸くして言う。



市販のウインナーをごま油で炒めただけだ。



誰にでもできるけれど、ごま油の風味が効いていてとてもおいしく仕上がるのだ。



「おだてたってなにも出ないよ」



あたしは照れ隠しにそう言って、ご飯を口に運んだ。



うん。



炊き加減も完璧だ。



カレーのときは少し硬めに炊くけれど、普段は食べやすいように少し柔らかくなるように水分量を気をつけている。



この柔らかさだと、朝の起き立ての口にちょうどいいのだ。

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