第28話

☆☆☆


翌日の朝、どうにかベッドに起き上がると、心と彩からのメッセージが入っていた。



《心:検査の結果異常なしだったよ!》



《彩:こっちも大丈夫だった。今日中には退院できるよ》



2人のメッセージに胸を撫で下ろす。



監禁されていた2人は念のために検査入院をしていたのだけれど、どちらも異常は見つからなかったみたいだ。



よかった。



自分のせいで2人を巻き込んでしまったし、なにかあったらどうしようかと怖くなっていたところだった。



《心:でも、お母さんから夏美から距離を置くように言われちゃった》



「え」



そのメッセージに思わず言葉を失った。



「どうした?」



部屋に入ってきた裕也が心配して声をかけてくる。



あたしは無言で心からのメッセージを裕也に見せた。



「きっと今だけだから、心配すんなって」



そう言って、コーヒーを渡してくれた。



わざわざ入れてくれたみたいだ。



「うん……」



あたしはコーヒーを受け取り、一口飲んだ。



親が子供を危険から遠ざけるのは当然のことだ。



だけど、ずっと仲良くしていた心のお母さんにそんな風に言われるのは、やっぱり胸が痛い。



犯人の男が捕まっていないというのも、大きな問題になっているようだった。



一番安心できないのはあたし自身だ。



一応両親に事件に関して連絡をしたものの、すぐに帰ってくることができなくて、昨日も裕也に泊まってもらったのだ。



今日の昼には帰ってくる予定だけれど、それまで一人でいるのかと思うと気が重くなる。



「今日も休むんだろ?」



裕也に聞かれてあたしはうなづいた。



事件のことは知れ渡っているだろうし、とても学校に行くような気分じゃなかった。



行っても心も彩もいないし。



「じゃ、俺も今日もさぼるか」



「裕也も?」



「あぁ。せめて両親が帰ってくる昼間ではここにいるよ。それで安心だろ?」



正直裕也が一緒にいてくれるとすごく心強い。



だけど、そんなに甘えていいのだろうかと不安になってしまう。



「そんな顔すんなって。俺なら大丈夫だから」



不安は顔に現れていたようで、裕也はあたしの頭をポンッとなでた。



「ごめんね、迷惑かけてばっかりで……」



せっかく両思いになれたのに、これじゃちっとも楽しくないはずだ。



昨日は命の危険にまでさらされたんだから。



落ち込むあたしの体を裕也は優しく抱きしめてくれた。



そのぬくもりに胸がキュンッと悲鳴を上げる。



こんなときなのに、ときめいてしまった。



「迷惑だなんて思ってないから」



裕也があたしの耳元でささやいた。



その吐息がくすぐったくて笑ってしまう。



身をよじって逃げようとすると、更に強く抱きしめられて引き止められた。



裕也の顔を見つめると熱い吐息がかかりそうな距離にある。



心臓がドクドクと早鐘を打ち始めて、裕也の顔を真っ直ぐに見ていられなくなる。



そして唇が近づいていった、そのときだった。



あたしのスマホが震えた。



ブーッブーッと、普段はあまり使わなくなったメールを受信する音がする。



あたしは裕也から身を離してスマホを見つめた。



誰からのメールだろう?



首をかしげている間に、更に2通、3通とメールが届く。



あたしと裕也は目を見交わせた。



何通ものメールが一気に届くなんて、電波状況が悪かったのかな?



そう思ってメールを開いたとき、一瞬にして血の気が引いていった。



《夏美ちゃん、今日相手してくれる?》



《1回1万って格安だね。今夜どう?》



《夏美ちゃんの家発見! 2人同時ってありですか?》



知らないアドレスから次々に送られてくるメールにあたしは目を見開いた。



「なんだよこれ……」



裕也も愕然としている。



こんなメールが来るなんて、どこかであたしのメールアドレスが流出しているとしか思えない。



全身が冷たくなり、呼吸が浅くなってくる。



メマイがして座っていることも困難だ。



と、そのときだった。



不意に外から男の笑い声が聞こえてきたかと思うと、階下から何かが割れる音が響いたのだ。



「キャア!?」



咄嗟に身を縮めてドアへ視線を向ける。



笑い声と一緒に誰かが走り去っていく足音が遠ざかっていく。



「くそっ!」



裕也が舌打ちをして部屋を駆け出した。



あたしはその後に続く。


リビングのドアを開けると、窓のカーテンがはためいているのが見えた。



窓の下の床にはガラスの破片が散らばっていて、こぶし大の大きな石が投げ入れられている。



「ひどいな」



裕也は呟きながらスマホを取り出して、昨日来てくれた警察官に連絡を入れ始めた。



あたしはなにもできず、呆然として割られた窓ガラスを見つめていたのだった。

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