第29話~順サイド~

警察を呼ぶなんてまるで俺が悪いみたいじゃないか。



俺はなっちゃんの家から少し離れているファミレスのトイレで軽く舌打ちをした。



なっちゃんに切られた肩はかすり傷程度だけれど、まさか自分に刃物を向けてくるとは思っていない展開だった。



それに、あの男……



俺は鏡の中の自分の顔を睨みつけて奥歯をかみ締めた。



あの男、やっぱり邪魔だな。



早いところどうにかしないと、俺となっちゃんの仲を切り裂こうとしている。



なっちゃんはあの男に黙れているんだと、今回のことでよくわかったし。



でもその前に、まずはなっちゃんにもう少し反省してもらわないとね。



浮気した挙句刃物を向けてくるなんてちょっと考えられない。



なっちゃんのことは心から愛しているけれど、お仕置きが必要だった。



俺はスマホを操作して裏SNSを表示させた。



ここには個人情報や裏バイトなどが垂れ流しにされていて、嘘か本当かわからない情報が蓄積されている。



《泉夏美16歳。現役高校生です!



今お小遣いがほしくて相手をしてくれる人を探しています。



1回1万円。



住所、電話番号、メールアドレス。



連絡待ってます♪》



適当な文面と、個人情報は本物を記入して、書き込んだ。



これで少しはなっちゃんも反省するはずだ。



俺はなっちゃんの個人情報が拡散されていくのを見て、笑ったのだった。


☆☆☆


ファミレスを出た俺は昨日とは別の場所でなっちゃんの家を監視していた。



俺の書き込みを見た人物だろうか、知らない男が家の周りをうろついている。



様子を確認していると、空き地から大きめの石を持ってきて、それをリビングの窓から投げ入れた。



ガチャンッ! と窓ガラスが割れる大きな音が響き渡り、男は笑いながら逃げ出してしまった。



途端に家の中が騒がしくなり、足音が聞こえてきた。



「あの男、まだなっちゃんと一緒にいるのか」



親指の爪を強くかむと、血の味が口に広がっていく。



睨みつけるようにして家の様子を確認していると、しばらくして男が一人で家から出てくるのが見えた。



「裕也、危ないよ!」



「大丈夫。少し見回りをしてくるだけだから。夏美は家にいて。絶対に誰も家に上げたらダメだからな」



男はそう言ってなっちゃんの頬にキスをした。



その様子に気が狂ってしまいそうになるが、グッとこらえる。



あの男さえいなくなってくれれば、なっちゃんは俺のものになるんだ。



早くどっか行け!



そんな気持ちが通じたかのように、男はなっちゃんの家から離れていく。



幸いにも俺がいるのとは逆方向だ。



しばらく男の後ろ姿を見守っていたなっちゃんは、すぐに家の中に戻って行った。



俺はそっと電信柱の影から出てなっちゃんの家に近づいた。



今家にはなっちゃんしかいない。



その上、リビングの窓ガラスが割れている状態だ。



こんなチャンスは二度とこないだろう。



絶対に逃せなかった。



俺はそっと家の庭に回りこむと、リビングの窓から室内へと入り込んだ。



その瞬間、リビングに戻ってきていたなっちゃんと視線がぶつかった。



「やぁ、なっちゃん」



怖がらせないように気をつけて笑顔を向ける。



しかし、元々青かったなっちゃんの顔は俺を見るなり更に青ざめていく。



「どうしたのなっちゃん。俺だよ。会いたかったんだろう?」



近づいた分だけなっちゃんは後ずさりをする。



「な、なんで……」



なっちゃんの声はひどく小さくて、俺に会えて嬉しすぎて声もでないのだとわかった。



そこまで俺のことを思ってくれているなんて、すごく光栄だ。



目の前にいるなっちゃんが可愛くて仕方ない。

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