第25話
空き地へ戻ったとき、俺は手に持っている缶に視線を落とした。
甘い酒だが、アルコールは9パーセントと強いものだ。
これを2人に飲ませることができれば……。
振り向いて、2人へ向けて笑いかける。
その笑顔が引きつっているのが自分でも理解できた。
笑顔なんてめったに見せないから、笑い方があっているのかどうかも、自分じゃわからない。
「なっちゃんが戻ってくるまでここで待っていようよ」
そう言って俺は缶のプルタブを開けた。
プシュッといい音がして、甘い香りが漂う。
「はいこれ、あげる」
俺は心に酒を手渡した。
「え、でもこれ夏美にお土産だったんでしょう?」
「い、いいんだ。ぬるくなると、まずくなっちゃうし、また買いに行けばいいから」
我ながら苦しい言い訳をして、飲むように促す。
心は一瞬彩へ視線を向けた。
「もらいなよ。今あけたばかりだし、ただのジュースでしょう?」
「うん」
心はパッケージをしっかり見ることなく、口をつける。
俺はゴクリと唾を飲み込んでその様子を見守った。
空き地へ移動している間に持っていたマジックでお酒と書かれている部分を塗りつぶしたのだ。
しっかり見ればわかるけれど、少し見ただけならわからない。
商品名で酒だとわからなければ、飲んでしまうだろう。
心は喉が渇いていたのか、一気に半分を飲み干してしまった。
「なんか、変わった味のジュース」
心の目がトロンとしている。
それを見た彩が「え?」と眉を寄せたが、もう、遅い。
俺はズボンの後ろのポケットからスタンガンを取り出して彩にし当てていた。
バチンッと音が響いて彩はその場に崩れ落ちる。
本当はなっちゃんや、なっちゃんと一緒にいる男につかう予定だったものだ。
あまり聞き分けが悪い時に使うつもりでいたけれど、こんなところで役立つなんて思わなかった。
崩れ落ちた彩を見て悲鳴を上げ、逃げ出そうとする心。
しかし、その足取りは遅くフラ着いている。
背中を少し押しただけで心は崩れ落ちてしまった。
「ふふっ……」
思わず笑みが溢れてしまった。
こんなに簡単になっちゃんの弱みを握ることができるなんて思っていなかった。
ようやく、神様は俺に味方をしてくれたんだ。
家にも学校にも居場所のない俺が、どれだけ苦しい思いをしてきたのかやっと見てくれたんだ。
「少し、遅いけどな」
ポツリと呟き、俺は心の体を引きずって空き地の奥へと移動したのだった。
☆☆☆
気絶している人間を扱うのは簡単だった。
もう1度コンビにへ行き、ガムテープを買って2人の手足を縛り、口を封じた。
そして2人の写真を撮影し、心のスマホからなっちゃんにメッセージを送ったのだ。
《友達がどうなってもいいのか?》
と。
今なっちゃんが慌てている様子が目に浮かんでくるようだった。
男と一緒にメッセージを見て、2人の友人が拘束されていることを知り、顔は真っ青になっていることだろう。
そして……大慌てで家を出てくるんだ。
「ふふっ……」
やっと、会えるね……。
俺は立ち上がり、なっちゃんの家へ向かって歩き始めたのだった。
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