SNSストーカー
西羽咲 花月
第1話 はじまり1
「今日のお弁当おいしそうだねぇ」
あたしのお弁当箱を覗き込んでそう言ったのは友人の松木心(マツキ ココロ)だった。
小柄で長い髪をツインテールにしている心はまだ中学生くらいに見える。
「でしょ。おかず交換する?」
あたしは心のお弁当箱の中身を確認して聞く。
心は今日はサンドイッチみたいだ。
「するする!」
心は嬉しそうにとびはねながら言うと、迷うことなく、あたしのお弁当箱の中から大きなから揚げを取って行った。
「あ、それ楽しみにしてたのに」
文句を言いながらも、あたしは心のお弁当箱からフワフワと卵サンドを取ってすぐに口に放り込んだ。
濃厚な卵の味が口いっぱいひろがって思わず笑顔になる。
「あぁ、あたしの卵サンド……」
心が大げさに落ち込んで見せたところで、柳原彩(ヤナギハラ アヤ)が近づいてきた。
彩の手にはコンビニの袋が握られていて、そこから出てきたのは野菜ジュースとおにぎりだった。
「彩のお母さん、まだ風邪治らないの?」
卵サンドを粗食しながら質問すると彩はうなづいた。
「うん。朝ごはん作ってたら自分のお弁当作る時間なんてなくてさ、今日もコンビニ」
彩はさしていやそうな顔もせずに、おにぎりをほお張る。
夏から秋にかけての季節の変わり目で、今風邪が流行っているのだ。
2日ほど前から彩のお母さんも風邪をひいたようで、その日から彩のお弁当はコンビニのおにぎりに変わっていた。
「仕方ない! あたし特性のから揚げを別けてあげよう!」
あたしは自分のお弁当箱の中にもう一個残っていたから揚げを彩に差し出した。
「え、いいよ別に。それ、楽しみにしてたんだろ?」
後から来た割にちゃんと話を聞いていたようだ。
一瞬返事に困ったが、そこは笑顔で乗り切る。
「大丈夫大丈夫! ほら、遠慮せずに!」
少し行儀が悪いけれど端で掴んだから揚げをそのまま彩の口に入れた。
「おいしい」
「でしょ? あたし特性の和風タレをからめてあるからね」
両親が定食屋を営んでいるので、料理の腕にはちょっとした自信がある。
仕事が忙しい両親のために、お弁当も自分で作って持ってきているのだ。
「2人とも、写真撮ろうよ!」
不意に心がスマホと自撮り棒をカバンから取り出して言った。
楽しい昼休憩時間をSNSに投稿するみたいだ。
「もちろん!」
あたしと彩はすぐにうなづいた。
最近あたしたちの間ではインツタという写真を投稿するSNSが流行っていて、毎日のように様々な写真を撮っている。
撮った写真をインツタに上げると、それを見てくれた人がコメントをくれたりして繋がることができるのだ。
3人でポーズを決めて写真を撮り、メセージアプリでシェアをした。
「いい感じに加工してっと」
後ろに移りこんだ他の生徒の顔をボカし、ついでに自分たちの顔も本物よりもすこーしだけ可愛くしたらできあがりだ。
念のため2人にインツタに投稿する許可を取ってから、あたしは写真を投稿した。
「写真をそんなに簡単に投稿してたら、危ない目にあうぞ」
突然後ろから声をかけられてビクリと体を震わせた。
慌てて振り向くと、そこに立っていたのは同じクラスの立野裕也(タテノ ユウヤ)だ。
「裕也、ビックリさせないでよね」
胸を撫で下ろして文句を言う。
「そんなにビックリすることないだろ。それより、インツタにあげる写真なら俺も混ざるんだったのに」
「なに? 写真に写りたかったの?」
「予防だよ、予防」
「予防?」
あたしは裕也の言葉に首をかしげる。
予防ってなんの予防だろう。
すると裕也は呆れたようなため息を吐き出した。
「夏美に説明したら調子に乗りそうだからやめとくよ」
「ちょっとそれどういう意味!?」
聞き捨てならない言葉に思わず立ち上がると、裕也が笑いながら数歩後ずさりをした。
「あははっ。2人って本当に中いいよね」
彩があたしたちを見て言う。
その言葉も聞き捨てならなくてあたしは彩をにらみつけた。
そして裕也と同時に「どこが!?」と反論し、結局彩と心2人から笑われることになってしまったのだった。
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