第14話

「そうだったんだ。それで、どうするの?」



『とりあえず3日間お母さんとお父さんが向こうの家に泊まることになったから』



「お店は?」



『長野からだから、新幹線で通えるわ』



「そっか。あたしはどうすればいいの?」



『夏美は学校があるから、今回は行かなくていい。でも、いつでもおばあちゃんの家にいけるように準備をしておいてほしいの』



「わかった」



あたしはうなづき、電話を切った。



長野の祖母に最後に会ったのはお正月のときだった。



あの時祖母も祖父もまだまだ元気で、オモチを沢山食べていたことを思い出す。



そんなおばあちゃんが今危険な状態にあるなんて、想像もできなかった。



少し気分が落ち込んだせいだろうか。



不意に視線を感じて振り返った。



そこには自転車や通行人の姿があるけれど、誰もあたしのことを見ていない。



きっと気のせいだ。



そんなことより、早く帰らなきゃ。



あたしは焦る気持ちを抑えつつ、足早に自宅へと向かったのだった。


☆☆☆


自宅へ戻ると、お店を早仕舞いにしてきた両親はすでに出かける準備を終えていた。



3日分の着替えを入れたボストンバッグを見ると、途端に電話の内容がリアルに突きつけられている気分になる。



「戸締りと火のものはちゃんとしてね」



「わかってる」



「なにかあったらすぐに連絡するのよ」



「うん」



「あと、なにか言い忘れてないかしら」



「お母さん、あたしは大丈夫だから早くおばあちゃんのところへ行ってあげて」



そう言って背中を押すと、ようやく両親は出かけて行った。



見送り、玄関のカギをかけて誰もいないリビングへ入ると、途端に寒々しさを感じる。



今日から3日間両親がいないと言っても、あたしはもう高校生だ。



留守番くらいどうってことはないし、お店に行けば会える。



でも、両親が出かける理由が理由なだけに、さすがに寂しさがこみ上げてきた。



おばあちゃん、元気になってくれればいいけれど……。



おばあちゃんの様態についての詳細を教えてもらえていないから、なんとも言えない状態だった。



ともすれば気分はどんどん暗くなっていく。



あたしは「よしっ!」と声を上げて冷蔵庫をあけた。



幸い、食材は沢山ある。



今日は暗い気持ちを吹き飛ばすために張り切って料理をしよう。



そう決めて腕まくりをしたのだった。



冷蔵庫の中身と相談した結果、今日はカレーとシーザーサラダを作ることにした。



カレーは大量に作ってしまいがちだけれど、水とルーの量を調節して2人前くらいにした。



残った分は明日の朝ごはんにするのだ。



一晩寝かせたカレーはまた別格のおいしさを持っているから。



たまねぎ、にんじん、ジャガイモの皮をむいて一口大にカット。



冷凍保存されている豚肉を取り出して解凍すると、それも一口大にカットする。



鍋を火にかけて油をそそぎ、温まったら肉、野菜を加えて少し炒める。



タマネギが透明になってきたら水を加えて煮込む。



にんじんが柔らかくなったらルーを入れてかき混ぜる。



とても簡単な料理だ。



カレーを煮込んでいる間にレタスをちぎってサラダも作った。



1人で食べるにはもったいない料理の完成だ。



キッチンはカレーのいい匂いが立ち込めていて、隠し味にチョコレートをひとかけらいれたら完成だ。



「う~ん、完璧!」



自画自賛しながら盛り付けたカレーとサラダをスマホで撮影して、インツタに投稿した。



最近のあたしのインツタは女子力が高い投稿ができていてとても満足だ。



コメントを見てみても、男女問わず褒めてくれる人が増えている。



この調子で頑張ったら、本当に柳純くんみたいなイケメンからコメントもらえたりして!



「なぁんて、そんなわけないか」



呟き、あたしは鼻歌交じりにカレーを一口食べてみた。



お父さんのお店と同じような味がした。

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