第13話~夏美サイド~
月曜日の登校日、あたしは遊園地のお土産を持って学校へ来ていた。
「あ、あそこの遊園地行ったんだね」
お土産のぬいぐるみを渡してすぐに反応してくれたのは心だった。
手のひらサイズのイメージキャラクターのぬいぐるみにしたのだ。
「うん。久しぶりだったから楽しかったよ」
「丘の上にあるから、子供の頃行くとアトラクションが高すぎてちょっと怖いんだよね。たぶん、今くらいに行くのが一番楽しめると思う」
心は嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめて言った。
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
「へぇ、遊園地か。久しく行ってないなぁ」
そう呟いたのは彩だ。
彩にも同じぬいぐるみを買ってきている。
「彩にぬいぐるみって全然似合わないね」
「なんだとぉ?」
心の一言で2人のジャレ合いが始まったときだった。
スナホが震えて、あたしは画面を確認した。
インツタにコメントが届いている。
相手は最近毎日のようにコメントをくれるジュンという子からだ。
「どうしたの?」
「インツタに届いたコメントを見てるの。ジュンっていう、たぶん女の子」
手作りケーキについていろいろと質問してきたときから、あたしはこのジュンという人のことを女の子だと思っている。
「へぇ、イケメン?」
心が興味津々でスマホを覗き込んでくる。
「女の子だと思うんだけどね。ハンドルネームがジュンだから、どっちかわかんないの」
「ジュンって、もしかして柳純くんだったりして!」
心が勝手に妄想をして喜んでいる。
そりゃ、あたしだってこのコメントが柳純くんだった嬉しいけど、芸能人が安易に人のインツタにコメントを残すとは思えなかった。
「知らないヤツとやりとりして怖くないのかよ」
そんな声がして振り向くと、いつの間にか裕也が立っていた。
裕也はインツタにハマっているあたしたちを見て、いつでも呆れ顔をしている。
「インツタの中だけだから大丈夫だよ」
返事をしながら、あたしは裕也にもお土産を渡した。
裕也にはキャラクターストラップを選んだ。
どれも無難なお土産になったと思う。
「休日の行動とか、バレバレだぞ」
まだインツタについて文句を言いながらも、裕也はさっそくストラップをズボンのベルトに装着した。
歩くたびにプラプラとゆれている。
「ちょっと、なんでそんなところにつけるのよ」
あたしは思わず笑い出し、突っ込んでしまった。
裕也も楽しそうに笑っている。
「冗談だよ。ちゃんとカバンにつけさせてもらうから」
本当に、お調子者なんだから。
☆☆☆
「そういえば、視線を感じたって言ってたけどどうなの?」
昼休憩時間になり、ふいに心がそう聞いてきた。
「あれ以来は特に感じないよ」
1度だけ学校までの通学路で強い視線を感じて焦ったことがある。
でも、それ以来は特に問題はなかった。
単純に自分が気がついていないだけかもしれないけれど。
「そっか、それならよかった」
「心配してくれてたんだ?」
「まぁ、少しは」
心はお弁当のおかずを口に運びながら答える。
特に妙なことも起こっていないし、心配することはなかったんだと思う。
「それより、そろそろ裕也の気持ちに気がついてあげたら?」
不意に彩からそんなことを言われて、あたしは口に入れた卵焼きを噴出してしまいそうになった。
「な、なんのこと?」
必死にごまかそうとするけれど、自分の顔が熱くなっていくのを感じる。
きっと今真っ赤になっていることだろう。
「お互いに好きなんでしょう?」
「そ、そんなことないし!」
否定する声が裏返ってしまう。
慌てて裕也の姿を探したけれど、幸い今教室にはいなかった。
この会話を聞かれていなくてよかったと、ホッと胸を撫で下ろす。
こんな会話を聞かれたら、恥ずかしくて顔を合わせられなくなってしまう。
「本当に、夏美も裕也君も初々しいんだから」
彩はまるでお姉さんのようなことを言い始めた。
3人の中で一番大人っぽいのは確かに彩だけど、恋愛遍歴について聞いたことがないことに気がついた。
あたしは一瞬心と目配せをした。
「彩の相手はどんな人?」
「恋愛経験多そうだよね。何人と付き合ったの?」
「どうやって両思いになるの?」
一気にまくしたてて質問するあたしと心に彩は瞬きを繰り返した。
まさか質問が自分の身にふりかかるとは思っていなかったみたいだ。
「べ、別にあたしの恋愛経験なんてどうでもいいでしょう」
彩は慌ててそっぽを向いてお弁当を食べ始めた。
ごまかそうとするということは、それなりに経験しているということだ。
「いいじゃん、ちょっとくらい教えてよー!」
「そうだよ、友達でしょー!?」
心とあたしに詰め寄られて、彩は慌てて教室から逃げ出したのだった。
☆☆☆
その日の帰り道、途中まで3人で返っていたあたしは分かれ道を過ぎて1人になっていた。
もう通いなれた道。
いつもの風景が広がっている。
左手には大きな道路。
右手にはお店や民家、アパートが立ち並んでいる。
この通りを途中で右折すれば住宅街が広がっていて、その一角にあたしの家はあった。
路地へ曲がる道まで来たとき、ポケットの中のスマホが震えた。
確認してみるとこの時間には珍しく母親からの着信だった。
『夏美、もう学校終わったの?』
「うん。もうすぐ家につくよ。どうしたの?」
『実は長野のおばあちゃんの様態があまりよくないらしいの』
「え?」
長野県に暮らしているのは父方の祖母だった。
まだ祖母も祖父も元気で毎年農作業をしていたはずだ。
「それってどういうこと?」
『3日前に倒れたんだって。大丈夫だろうと思って、うちには連絡してこなかったらしいのよ』
お母さんの声は困り果て、そして焦っている。
嘘じゃないみたいだ。
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