第12話

神様は不公平だと思っていた。



俺みたいなヤツがいる反面、さっきの3人みたいなヤツもいる。



強い者は弱い者から、あらゆるものを搾取していく。



それが当然みたいな顔をして。



そして弱いものは、それを我慢していなければならない。



人間界で存在する弱肉強食は非情だ。



「誰が来てたんだ」



赤い顔をして酒の匂いを振りまきながら父親が問いかけてきた。



俺は自分の部屋に向かいながら「誰だっていいだろ」と答える。



その瞬間、自分自身で驚き、立ち止まっていた。



俺、今なんて言った?



自分に質問している間に背後に気配があって振りむいた。



同時に頬を殴られて横倒しに倒れる。



臭い息を吐きながら父親が俺を見下ろしている。



「なんだぁ? その口の利き方は」



「な、なんでもないんだ。ただの友達が来ていただけなんだよ」



俺は必死に説明する。



笑顔を貼り付けて、これ以上父親の機嫌を損なわないように。



父親はユラリと近づいてきて倒れこんでいる俺の脚を思いっきり踏みつけた。



「ぐっ!」



くぐもった悲鳴を上げて痛みに耐える。



父親は俺の足を力いっぱい踏みつけたまま、グリグリとねじってきた。



骨に振動が伝わって痺れを感じる。



「もう二度とナメた口利くなよ」



「……はい」



素直に謝ると、父親はどうにか俺を解放してくれた。



少し返事の仕方が悪いとすぐにこれだ。



立ち上がると足に痛みを感じたが、これを伝えると余計にキレられるとわかっている。



俺は踏みつけられたほうの足をひきずりながら自分の部屋へと戻って行った。



ドアを閉めるとようやく痛みに顔をしかめた。



ここだけは自分の空間だ。



誰にも邪魔されない、大切な聖域。



心を落ち着かせるためベッドに座り、大きく深呼吸をする。



ろくに洗濯されていない、ジメジメとしたカギくさい布団のにおいがする。



みんなが顔をしかめるような匂いでも、俺にとってはこれが落ち着ける匂いになっていた。



俺は布団に顔までもぐりこんできつく目を閉じたのだった。


☆☆☆


布団に入って落ち着くと、知らない間に眠ってしまっていた。



窓の外を見ると空はすでにオレンジ色に染まってきている。



今日1日を眠って過ごしてしまったようだけれど、特に予定のない俺には関係のないことだった。



リビングを確認してみると、父親が酒の缶を片手に持った状態でいびきをかいて眠っていた。



起こさないようそっと横を通り過ぎてインスタントラーメンを作る。



ポットがあるおかげで火を使わなくていいから、安心だ。



お湯を入れたカップ麺と箸を持って自分の部屋に戻り、またベッドの上に座った。



ここくらいしかまともに座れる場所がないからだ。



3分待っている間に、なっちゃんのインツタを確認した。



すると遊園地の写真が投稿されていた。



俺は目を見開いて息を飲んだ。



その遊園地は、俺が1度だけ行ったことのある場所だったのだ。



実際には行った記憶はないのだけれど、母親と父親、そして俺の3人で写っている写真を見たことがある。



家族3人の唯一の思い出だ。



信じられないけれど、その写真の中ではあの父親も笑顔だった。



俺にとって幸せの象徴である遊園地なのだ。



そんな大切な場所になっちゃんも行ったのだ。



加工してあるが、なっちゃんの両端に立っている人物はきっと両親だろう。



その構図は俺が持っている、自分の写真と酷似していた。



《その遊園地、行ったことがあります!》



考えるより先にコメントを送っていた。



これはもう、間違いなくなっちゃんから俺へのアピールだ。



ラーメンが出来上がっているもの忘れて待っていると、すぐになっちゃんからの返事が送られてきた。



《そうですか、奇遇ですね!》



一瞬冷たい文章に疑問を感じたが、すぐになっちゃんは俺たちの関係を他にはバレないようにしているのだと思い出した。



今回もきっとそうなのだ。



そう考えるとなっちゃんの行動は本当にいじらしくて可愛くて、愛おしい。



俺はスマホを握り締めて深く息を吐き出したのだった。

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