第33話

☆☆☆


みんなも来る。



そんなの嘘だった。



本当は俺以外誰もいない。



夜9時にもなるとあたりは暗くて校舎内には誰の気配も感じられなかった。



少し待っていると、懐中電灯の光がこちらへ近づいてくるのが見えた。



『こんばんは』



声をかけると彼女は警戒した表情を俺に向けた。



優等生な彼女が本当に家に抜け出してこられるとは思っていなかった。



彼女は周囲を見回して『誰もいないじゃない』と、腕組みをする。



『みんなは裏にいるんだよ』



俺はそう言って、彼女の前を歩き出した。



移動場所は校舎裏だ。



そこには使われなくなった古い井戸があって、昼間の間に重たい石の蓋を少しずらしておいたのだ。



細身の彼女が入れるくらいのスペースだ。



『ちょっと、誰もどこにもいないじゃない』



校舎裏に来て彼女は立ち止まった。



警戒心をむき出しにして、俺から距離をとっている。



もう少し近づいてくれないと、彼女を井戸に突き落とすことができない。



『きっと、先に行っちゃったんだ。俺はひとりで君が来るのを待っていたんだよ』



『嘘つき! みんながあたしを置いていくわけないじゃん!』



彼女は自分の立場をしっかりと理解していた。



置いていかれるのは俺であって、自分ではない。



それをわかっていた。



だから俺は彼女の腕を掴んで強引に井戸の前まで移動してくるしかなかったんだ。



『ちょっと、なにするの!?』



暴れる彼女の体を井戸のふちに押し当てた。



彼女はこちらを向いた状態で、井戸の穴へ向けて背をそらせる状態になった。



『大丈夫。この中にみんないるんだから』



自分の声が井戸の中にこだました。



少しだけ残っている水に月明かりが映りこんでいる。



『やめて!!』



彼女の悲鳴が聞こえた次の瞬間、俺は力を込めて彼女を井戸に突き落としていた。



頭から落下していく彼女の顔は暗くてよく見えなかった。



少しして井戸の底にぶつかる音がして、やがて静かになった。



俺は井戸の蓋を元に戻すと、校舎を後にしたのだった。



翌日彼女は行方不明になったと全校生徒に知れ渡り、大規模な捜索も行われた。



しかし、いまだに彼女は見つかっていない。



あの井戸を取り壊す日が来るまできっと、永遠に見つかることはないだろう。

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