第31話

誰からも相手にされない俺にこんな風に接してくれるなんて、きっと特別な感情があるからに決まっている。



彼女は俺のことが好きなんだ。



その気持ちに感づいた俺は、彼女へのプレゼントを考えるようになっていた。



全員と友達になるという先生が考えた企画で、名前と誕生日と趣味を記入した紙をクラスメートたち全員と交換していた。



当然、彼女の紙も持っている。



それを確認して7月6日が彼女の誕生日だということはわかっていた。



その日にあわせてプレゼントを用意することにしたのだ。



といっても、小学生の俺が買えるものは限られている。



父親は飲んだくれだから金なんてきっと出してくれない。



悩んだ挙句、俺は新しいエンピツを一本だけ用意した。



12本入りのエンピツの、一本だった。



俺はそのエンピツに小さな赤いリボンをつけて、学校に持って行った。



休憩時間になると、女子たちはすぐに彼女の周りに集まり始めた。



今日が彼女の誕生日であること、そして彼女がクラスの人気者だからだ。



『よっちゃん、これあたしからの誕生日プレゼント』



『ありがとう』



『これは俺から』



次々に渡されるプレゼントに彼女は笑顔を崩さない。



色とりどりのラッピングを見て、自分のプレゼントが安っぽく見えてくる。



だけどきっと彼女は俺のプレゼントを待っているはずだ。



だって彼女は俺のことが好きなんだから。



勇気を出して、俺は輪の中に一歩足を踏み入れた。



途端に周りの女子が俺から離れた。



顔をしかめて、鼻をつまんでいる。



真ん中にいる彼女は俺に気がついて一瞬目を見開いた。



しかし、笑顔は浮かべたままだ。



『これ、プレゼント』



そう言って、一本のエンピツを両手で差し出した。



一瞬クラス内が静まりかえり、次の瞬間大きな笑い声がクラス内に響いていた。



みんなが俺を見て笑っている。



それがプレゼント?



エンピツ一本って!



仕方ないよ、あいつの家すげー貧乏だから!



そんな声があちこちから聞こえてきてさすがに居心地の悪さを感じた。



差し出したこの手を引っ込めてしまいたいと思った。



だけど、次の瞬間。



『ありがとう』



彼女はそう言うと、俺のエンピツを受け取ってくれたのだ。



俺は唖然として彼女を見た。



彼女の笑顔はさっきまでと変わらない。



安堵と嬉しさが胸の中に広がっていく。



受け取ってくれた!!



それだけで俺の心は有頂天だった。



勇気を出して渡してよかった。



彼女はこれから俺がプレゼントしたエンピツで勉強をするのだ。



そう思うとワクワクした。



だって、あれは12本ある内の1本だ。



俺とおそろいなんだ。



『ちょっとどいてよ』



有頂天でいる俺の体を突き飛ばすようにして、女子生徒が割って入ってきた。



体のバランスを崩してこけてしまったけれど、今は痛みだって感じなかった。



ただただ、嬉しかったんだ……。

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