第5話 ~夏美サイド~
いつもどおり3人でお弁当を食べていると、スマホを見ていた心が声を上げた。
「ちょっと、この情報見て!」
差し出されたスマホに出ていたのは芸能ニュースで、なんとあの柳純くんが新しいドラマの主演に抜擢されたことが書かれていたのだ。
あたしは目を見開いてそのニュースを読んだ。
《大人気俳優、柳純!
次々と主役決定!》
秋からの連続ドラマと、来年春からの連続ドラマ。
それに映画に舞台とどんどん次の活躍場所が決まっていっているみたいだ。
「すごいね柳純の勢いは」
さすがの彩も気になるようで、お弁当を食べる手を止めてニュースを見ている。
彩のお母さんの風邪はすっかりよくなったみたいだ。
「だよね。あれだけかっこいいんだもん。今日は歌番組に出るみたいだし、もしかしたらCDデビューしちゃったりして!」
「それありえるよね! そうなったら、柳純くん主演ドラマの主題歌を柳純くんが歌ったりするようになるのかも!」
心もあたしと同じくらいに興奮している。
そうなってくるともう、頭の中は純くんで一杯になってしまう。
この気持ちをぶつける場所がほしくて、あたしはスマホを取り出した。
いつものインツタを表示して、《純くん大好きーっ!》と、書き込む。
「そんなこと書いていいのか?」
背後から声をかけてきたのはいつもの裕也だった。
裕也はあたしのスマホを勝手に覗き込んでいる。
「ちょっと、勝手にみないでよ!」
「お前に言われたくねぇよ!」
裕也に反論されて、あたしはペロッと舌を出した。
そう言えば今朝裕也のスマホを奪い取って壁紙を2人に見せたんだっけ。
「はいはい、喧嘩するほど仲がいいよね、2人は」
彩はまるで聖母マリアのような表情であたしと裕也を見つめている。
どうしてそんな表情で見られるのかわからなくて、あたしは首をかしげた。
一方の裕也は彩の言葉に顔を真っ赤にしてしまった。
なんで照れてるんだろう?
「裕也も柳純みたいにイケメンにならないとねぇ」
「うるせぇな」
心の言葉に、今度は怒りはじめてしまった。
本当によくわからないヤツだ。
あたしは気にせず、インツタに《純くん大好きーっ!》と、投稿したのだった。
☆☆☆
それから放課後まで、ほとんど柳純くんの話題ばかりで盛り上がっていた。
芸能人に興味のない子でも柳純の話になると乗ってきてくれるから、話題に困ることがない。
そんな1日が終わって教室から出ようとしたときだった。
「あ、そういえば今日お母さんの誕生日だ」
柳純くんの話題ですっかり忘れてしまっていたけれど、今日はあたしのお母さんの誕生日。
ちょうど40歳になるから嫌がっていたことを思い出した。
「なにか買って帰るの?」
彩に聞かれてあたしは左右に首を振った。
プレゼントに悩んだときは料理をするに限る!
今日は食材を買い込んで、両親が帰るまでに豪華なご飯を用意しておく予定なのだ。
できれば、ケーキも。
お菓子系はあたしの得意分野ではないけれど、食べることは大好きだ。
今はスポンジとクリームとスルーツを買って、簡単に作れるケーキもある。
それを使えば時間も短縮できるし、失敗することもない。
「今日は早く帰ってご飯を作るの。じゃあね彩、バイバイ!」
あたしは元気よく彩に手を振り、足早に教室から出たのだった。
☆☆☆
3時過ぎのスーパーは思っていたよりもお客さんの数が少なかった。
夕飯の買出しまでにはまだ時間があるんだろう。
「から揚げにオムライスに、シチューとサラダ。これだけあれば十分かなぁ?」
3人分の食材をカゴに入れていくとさすがにずっしりと重たい。
両親のお店に行けばこのくらいの材料はそろっているけれど、今日は全部を一人でやりたいのだ。
これはきっと、両親のお店で働くときにも役立つことになるから。
できるだけいい食材を、できるだけ安く仕入れる。
そういう知識も少しずつつけていくつもりだ。
そして最後はケーキだった。
手作りお菓子のコーナーへ向かうと、いろいろな材料がそろっている。
混ぜて焼くだけでできるクッキー。
形を作って冷やすだけでできるレアチーズケーキ。
トッピングのチョコレートも色とりどりで、見ているだけで楽しくなってきてしまう。
その中から数字の形をしたろうそくを2本選んだ。
4と0だ。
さすがにろうそくを40本立てるのは大変だから、これはとても役にたつ。
形や色も可愛い。
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