第4話 ~順サイド~

昨日から、俺の朝の日課は変化した。



いつもは投稿時間になるまでベッドの中でゴロゴロして、ギリギリになって着替えてそのまま学校へ向かう。



朝は食べない。



だけど今日は投稿時間の2時間前に起きていて、昨日見つけた女子高生のインツタを確認していた。



最終投稿時間は昨日の12時20分。



学校でお弁当を食べている写真だった。



一応、周りの生徒たちに配慮して風景はぼかしているが、3人の顔はしっかりと映っている。



現役女子高生の写真と言うことでそこそこ人気があり、その写真には100を超えるいいねがついていた。



俺は舌なめずりをして写真の中央にいる女の子を見つめた。



この子がインツタの持ち主、ハンドルネームはなっちゃんだ。



なっちゃんの投稿をさかのぼってみてみると、ますます俺の愛ちゃんに似ているのがわかった。



スマホから視線を外して自室の壁に視線を向けると、そこには沢山の愛ちゃんのポスターが貼られている。



愛ちゃんは去年まで地元アイドルとして活動していた17歳の女の子だけれど、なかなか人気が出なかったことで活動をやめてしまったのだ。



愛ちゃんはブログもSNSの呟きもすべてやめてしまい、本当に普通の17歳に戻ってしまった。



以来俺はネット上で愛ちゃんを探し続けてきたのだ。



それでも愛ちゃんはどこにもいない。



あれだけ俺の心を掴んだ愛ちゃんは、俺に一言の相談もなしに俺の前から姿を消してしまったのだ!



思い出すと怒りがわいてきて、俺はポスターの一枚を右手で破り捨てた。



荒い呼吸を繰り返し、他のポスターも睨みつける。



1度あふれ出した感情を制御することは難しい。



俺は次から次へと愛ちゃんのポスターを破り捨てて行った。



今まで手放すことができなかったものだけれど、もう大丈夫だ。



だって俺はもう1人の愛ちゃんを見つけたから。



なっちゃんという、天使を見つけることができたから。



「さようなら、愛ちゃん」



俺はそう呟いて、最後のポスターを破り捨てたのだった。


☆☆☆


それから登校時間が迫ってくるまで、俺はなっちゃんのインツタを見ていた。



1枚の写真を隅々まで確認する。



幸い、その中に男の姿はなくてホッとした。



俺のなっちゃんに他の男の姿があるなんてありえないことだ。



なっちゃんは純粋でなければならない。



なっちゃんは、穢れていてはならない。



なぜなら、なっちゃんは俺のなっちゃんだからだ。



「なっちゃん、なっちゃん」



俺は口の中でぶつぶつと呟きながらなっちゃんの写真を確認していく。



と、そのときだった。



なっちゃんが自宅の部屋と思われる場所から自撮りしている写真を見つけたのだ。



俺はその写真を最大に拡大して見つめた。



教室の中とは違うから、背景は加工されていない。



しかし、その奥にドレッサーを発見したのだ。



俺はそこを凝視した。



よく見てみれば鏡の中に窓の外の景色が写っているのがわかる。



隣の家の屋根。



電信柱。



木。



俺はゴクリと唾を飲み込み、パソコンを起動させたのだった。


☆☆☆


そこからなっちゃんの家を特定するのは簡単だった。



電信柱には個別番号がつけられていて、それが鏡に映っていたのだ。



それを発見した俺はすぐにマップで場所を調べて、なっちゃんの家に来ることができていた。



「行ってきまぁす」



なっちゃんは玄関先で中にいるであろう、家族へ向けて声をかけて歩き出した。



その顔、制服は間違いなくインツタで見たなっちゃん本人だった。



俺は興奮して思わず鼻息が荒くなってしまった。



本物のなっちゃんが今目の前にいる。



手を伸ばせば届いてしまうかもしれない距離にいる。



同時に、愛ちゃんのことを思い出していた。



愛ちゃんの家を特定することも、俺にとってはとても簡単な作業だった。



いや、作業なんて呼び方が大げさなくらいだ。



すでに地元イベントなどで何度も愛ちゃんに声をかけて顔見知りになっていた俺は、勇気を出して声をかけた。



『愛ちゃんおはよう。いい天気だね』



と……。



だけど愛ちゃんは玄関先にいた俺を見た瞬間サッと青ざめたんだ。



そして汚いものでも見るような目をして、悲鳴を上げ、家の中に逃げ込んでしまった。



あの時のことは今でも胸に突き刺さっている。



どうして愛ちゃんが俺に向かってあんな態度をとったのかもわからなかった。



その時の俺は気が動転して逃げてしまったが、悪いことなどなにもしてないと胸を張って言うことができる。



だから、今回はなっちゃんに声をかけなかった。



なっちゃんの後を慎重に追いかけるだけだ。



なっちゃんの足取りは軽くて、学校生活を楽しんでいる様子がわかった。



あのインツタだって、友達の写真で埋め尽くされている。



と、その時なっちゃんが自分のお腹に触れて「少し痩せないとなぁ」と呟いた。



インツタで見たときも、実際になっちゃんを目にしている今も、なっちゃんの体系は十分にスレンダーだ。



つい「そのままで十分だよ」と、声に出して言ってしまった。



ハッとして身を潜めると、なっちゃんがビックリした表情で周囲を確認し始めた。



でも幸い俺の存在には気がつかなかったみたいだ。



今日はもう、これ以上はやめておいたほうがいいかもしれない。



1度なっちゃんの家まで戻って郵便物を確認して、本名を知ることができればそれで十分だ。



俺はそっと身を翻して、来た道を戻り始めたのだった。

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