第22話~順サイド~

せっかく家までやってきたのに、なぜだか夏美は玄関を開けてくれなかった。



他の場所から入ろうかとも考えたけれど、どこの窓もしっかりと施錠されてしまっていた。



どうしてだ?



あれだけインツタを使って俺を誘っておいて、どうして家に上げてくれない?



混乱と憤りを感じながら俺はなっちゃんの家の近くにある空き地へと移動していた。



ここからなら、なっちゃんの家がよく見える。



リビングの電気は消えているけれど、中にいることはわかっている。



それなら出てきてくれればいいのに、もしかして照れているのかもしれない。



俺となっちゃんが会うのは実質これが初めてだから勇気がでなかったのかも。



そうだ、きっとそうに決まっている。



そう思うと胸の中の怒りはゆっくりと静かになっていった。



なっちゃんは本当に可愛い性格をしているようだ。



俺のために一生懸命インツタで家の場所を伝えて、俺の好きなケーキを準備して、そして俺の大好きな遊園地にまで行ってアピールしてくれた。



「ふふっ……ふふふっ」



思い出すとニヤケが止まらなかった。



なっちゃんが俺のことを頑張って調べてくれたとわかったとき、俺も負けないようになっちゃんのことを一生懸命に調べたんだ。



名前は泉夏美ちゃん。



大森高校の16歳。



1年C組にいる。



家族構成は両親となっちゃんの3人。



インツタのパスワードはなっちゃんの誕生日。



そういえば、なっちゃんの両親は今長野にいるみたいだね。



これもなっちゃんが俺に直接教えてくれたんだ。



学校の帰り道にわざと大きな声で電話をしてくれた。



ふふっ。



今思えば、あの時から俺のことを家に誘っていたんだと思う。



すぐに行ってあげなかったからカレーが冷めてしまって、怒っているのかもしれない。



でも仕方がなかったんだ。



俺はあの時クラスの3人組と一緒にいた。



一旦家に帰って、せめて血を拭いておく必要もあった。



だから、なっちゃんのインツタを見るタイミングがズレてしまったんだ。



あぁ。



俺の可愛いなっちゃん。



機嫌を直してくれないかな。



それで、一緒のカレーを食べようよ。



もう1度なっちゃんの家に行こうとした、その時だった。



ひょろりとした優男がなっちゃんの家に近づいていくのが見えて、俺は身を隠した。



男はひどく焦っている様子で玄関のチャイムを鳴らしている。



でも、なっちゃんが玄関を開けるわけがない。



これから俺となっちゃんの2人で楽しい時間を過ごすんだから、よそ者を入れるわけがない。



なのに……。



なっちゃんが玄関から飛び出してくるのを見た。



そして男に抱きつくところも。



男はなっちゃんに話しかけて、なっちゃんは大人しく家に入っていく。



俺は呆然としてその光景を見つめていた。



なんだ今のは?



どういうことだ?



あの男は誰だ?



どうして俺以外の男を家に入れるんだ?



次々と疑問が溢れだしてきて止まらない。



全身から嫌な汗が噴出してきて、今にも倒れてしまいそうだ。



俺は荒い呼吸を繰り返しながらスマホを操作した。



なっちゃんのインツタを表示させてコメントを残す。



《どうして玄関を開けてくれないんだ》



《カレー、俺と一緒に食べるんだろ?》



《一緒にいる男は誰だ!?》



もうなりふり構っていられなかった。



俺となっちゃんの関係はこれでバレてしまっただろう。



でもそんなことは関係なかった。



「なんでだ。どうして返事をしない!?」



俺は何度も地面を蹴りつけた。



返事をしないなっちゃんが悪いんだ。



《返事をしろ!》



俺を家に上げないなっちゃんが悪いんだ。



《お前の住所を晒すぞ!》



俺以外の男を家に上げるなっちゃんが悪いんだ。



《許さないからな!》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る