第23話

なっちゃんへ向けて罵倒しながらも、俺は入手したパスワードを使ってなっちゃんのメールアドレスも入手していた。



インツタの個人情報管理画面に入れば一発だ。



これでSNSを削除されてもなっちゃんと繋がることができる。



「ふふっ……ふふふ」



俺を裏切った罪は重いからな……。



俺はスマホ画面を見つめて、ニタリと口角を上げて笑ったのだった。


☆☆☆


それからも俺はずっと空き地でなっちゃんの家を監視していた。



夜になっても朝になってもあの男となっちゃんは出てこない。



2人きりで何時間も同じ家の中にいると思うと、腸が煮えくり返りそうになった。



だけどまだタイミングではなかった。



こちらにはまだなんの切り札もない。



必ずなっちゃんへの復讐を果たすためには焦りは禁物だった。



無断で学校を休んでしまったことでさっきから電話やメールが鳴っていて、俺は軽く舌打ちをした。



学校からの電話は切れたからメールを確認してみると、あの3人組からのメールですべて埋め尽くされていた。



《逃げんなよ》



《今日も金もらいに行くからな》



《順くんが学校来ないと、つまんねーんだよなぁ》



そんな、くだらない内容ばかりだ。



俺は怒りを込めて削除していく。



こんな風にくだらない人間を消して行くことができればいいのに。



そして最後に俺となっちゃんだけが存在している世界になればいいのに。



それは何度も何度も考えてきたことだった。



この世界は下等生物で溢れている。



学校の3人組も、いちいちキャアキャアうるさい女子たちも、それに教師も、親もだ。



俺にとってはなんの価値もない連中ばかりだ。



唯一、バイト先の店長は生かしてやっておいてもいいと思えるが、それでも俺より下であることには違いない。



「早く、早く出て来い……」



俺は親指の爪を強く噛んで、なっちゃんの家を睨みつけたのだった。


☆☆☆


それから昼になっても誰も出てこなかった。



何度も地面を蹴りつけたため、そこだけえぐれてしまっている。



なんで出てこないんだ。



あの男はどうしてなっちゃんの家に入り浸ってる?



インツタを確認してみるとなっちゃんからブロックされているのがわかった。



そんなことをしても無意味なのに……。



パスワードを使ってなっちゃんのインツタに侵入すると、俺がなっちゃんの家を特定した写真が削除されていた。



そうだね、他の男に感づかれても困るからそれは関心するべき行動だ。



だけど、俺からのコメントをすべて削除しているのはどうしてだ?



ひとつ残らず消されていることに頭に血が上っていく。



これはきっとあの男に仕業だ。



あの男がなっちゃんに妙なことを吹き込んでいるんだ。



相思相愛の俺たちを無理矢理引き剥がそうとしているのがありありと見て取れる行動だ。



俺はギリギリと奥歯をかみ締めてなっちゃんの家を睨みつける。



出て来い。



早く出て来いよ……!


☆☆☆


夕方近くになったとき、俺は近くのコンビニにやってきていた。



いくら見張っていても、トイレだけはどうしようもない。



用を足してさっさと帰ろうとしたとき、レジに立っている男の顔に気がついた。



それは俺をイジメてる3人組の1人だったのだ。



確か、バイト先の愚痴を言っていたことを思い出した。



そうか、あいつのバイト先はここだったのか。



俺は舌なめずりをしてそいつに近づいた。



「なぁおい」



声をかけると男は驚いたように目を丸くした。



いつも人をバカにして笑っている男でもこんな顔をするのだと思うと、愉快な気分になった。



でも、今遊んでいる暇はない。



「なんだよお前、今日学校――」



「酒をくれ」



俺は男の言葉を途中でさえぎって言った。



「はぁ? なに言ってんだテメェ」



すぐにけんか腰の声色に変化する。



しかし、今の俺は全くひるまなかった。



なっちゃんと2人きりの世界を作ることができるなら、どんなことも怖くはなかった。



俺はスマホを取り出して音声再生アプリを起動させた。



『おいお前、金は持って来たんだろうな』



『なんとか言えよ。返事くらいできるだろ?』



『怖くて声もでないってか?』



3人の会話が流れ出した瞬間、男の顔色が変わった。

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