第9話~夏美サイド~
ケーキの写真をインツタに投稿すると、すぐにコメントが寄せられた。
《すごい!》
《え、これ手作り?》
《女子力高っ!》
そんなコメントに少し苦笑いを浮かべる。
簡易的な材料を使ったとは書かなかったから、みんな賞賛してくれているのだ。
でも、悪い気はしなくてあたしは更にコメントを読み進めた。
《ケーキ、おいしそうですね! 食べてみたいです♪》
それは初めての相手からのコメントだった。
ハルドルネールはカナカナでジュンと書かれていて、男か女かわからない。
とにかくご新規さんは丁寧に挨拶しておいたほうがいい。
そう思い、あたしは返事を書き込み始めた。
《ありがとうございます! 思っていたよりも上手にできました》
当たり障りのない文章を送ったとき、両親が帰宅する音が玄関から聞こえてきた。
「お帰り!」
すぐにお出迎えをすると、お母さんが「なに? いい匂いね」と、敏感に感じ取った。
「えへへ。今日はお母さんの誕生日でしょ。ちょっと頑張っちゃった」
そう言って両親をキッチンへ通す。
すでに盛り付けられている食材に2人とも目を丸くしている。
「いつの間にケーキまで作れるようになったんだ?」
お父さんの言葉にあたしは苦笑いを浮かべて「それは簡単に作れるスポンジを買ってきて作ったの」と、素直に答えた。
「なるほどな。それにしては綺麗な飾りつけだな」
「2人とも座って。今オムライスの卵を焼くから」
あたしは2人を席に座らせて、最後の仕上げに取り掛かった。
シチューを温めなおし、丸いフライパンに油を引く。
ボウルに卵を割りいれて、よく混ぜる。
このときに少しマヨネーズを加えた。
後はゆっくりと焼いていけば完成だ。
「できたよ」
「わぁ、おいしそうね」
ほどよくトロトロ卵のオムライスを前にして、お母さんは嬉しそうだ。
「食べてみて?」
「いただきます」
2人同時に手を合わせてオムライスを口に運ぶ。
あたしは少し緊張しながら2人の反応を見守った。
これでも幼い頃から2人の料理の手伝いをしてきたのだ。
少しはおいしくできているはずだけれど……。
すると、お母さんが笑顔で顔を上げた。
「おいしいわ。お父さんが作るオムライスと同じ味がする」
「本当に!?」
嬉しくなって、思わず立ち上がってしまった。
「本当よ。これならいつでもお店を任せられるわ。ね、お父さん?」
「あぁ。そうだな」
お父さんもおいしそうにオムラスを食べてくれている。
2人の反応にひとまず安心して椅子に座り直した。
そして自分でも一口食べてみる。
たまごのトロッとした部分が舌に絡みつき、チキンライスのほどよい味付けが口いっぱい広がる。
我ながら上出来かもしれない。
今のお母さんの言葉が社交辞令じゃないと思えて、嬉しくなった。
と、そのときだった。
テーブルの上に置きっぱなしだったスマホがチカチカと点滅しているのが見えた。
食事中に失礼だと思いながら、気になって確認をする。
するとそこに表示されたのはさきほどコメントのやりとりをしたジュンという人からの返信だった。
《どうやったらそんなに上手に作れるんですか?》
《ケーキ作りは何度目ですか?》
当たり障りのない内容。
でも随分とケーキつくりに関して気にしているようだから、きっと女の子だ。
後で返事をしてあげよう。
そう思い、スマホを置いたのだった。
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