第10話
☆☆☆
翌日は土曜日で学校が休みの日だった。
朝のんびりと眠っていると、8時前に部屋のドアをノックされた。
寝ぼけ眼で返事をしてベッドから起き上がると、入ってきたのはお母さんだ。
「夏美、今日は3人で遊園地に行かない?」
突然の誘いにあたしはびっくりして目が覚めてしまった。
「え、なんで急に遊園地?」
「昨日のお礼。夏美があそこまでしてくれるとは思わなかったから」
「でも、お店が……」
そこまで言って言葉を切った。
時刻はすでに8時前。
普段なら材料を市場まで仕入れに行くため、両親はすでに出勤している時間になる。
「どうしてまだ家にいるの!?」
2度驚いて今度こそ目がさめた。
お母さんはそんなたしを見て笑い声をあげ、「今日は臨時休業よ。お休みの日はだいたいいつもお店があって、遊びに行けてないもんね」と、言ってくれた。
確かに。
家族3人で遊園地に行ったのなんて、幼稚園ぶりかもしれない。
2人はあたしのためにお店を休んでくれたんだ。
そう思うと途端にこみ上げてくるものがあって、あたしはお母さんに抱きついていた。
「ありがとう! すぐに着替えるから!」
「落ち着いて。ゆっくり着替えていらっしゃい」
お母さんはニコニコと上機嫌で、あたしの部屋を出て行った。
さて、久しぶりの遊園地だ。
どんな服を着て行こう?
一瞬持っている中で一番可愛いワンピースにしようかと考えた。
けれど、これじゃ動きまわることができない。
やっぱりズボンとTシャツくらいの軽い格好がいいかもしれない。
ご飯を沢山食べても大丈夫なようにベルトはゆるめにして……。
いろいろ考えながら支度をしていると、あっという間に8時が過ぎてしまった。
あたしはバッグを掴んで大慌てで階段を駆け下りた。
玄関先にはすでに両親が待ってくれている。
「ちょっと夏美。顔くらい洗いなさい」
慌てて外へ出たあたしにお母さんが声をかける。
そうだった。
着替えただけで顔も洗っていなかった。
「待っててよ!?」
「当たり前じゃない」
あたしはまた慌てて家の中へと書け戻ったのだった。
☆☆☆
あわただしく出発した遊園地は当時とあまり変化していないように見えた。
車で1時間ほどの場所にあり、丘の上に立てられているそれは眺めが抜群なのだ。
「この遊園地にきたら絶対に観覧車に乗らないとだよね!」
あたしは子供みたいに2人の手を引いて観覧車へと向かう。
本当は夜のほうが海の見える夜景を見下ろせて最高なんだけど、日が高いうちでも十分に楽しむことができる。
ジェットコースターだって、丘の上ということでその迫力はぐんを抜いているのだ。
とにかく楽しむことができるこの遊園地を、あたしは子供のころから大好きだった。
園内を歩いているイメージキャラクターたちと一緒に写真を撮り、キャラクターのオリジナルグッズを買って、おいしい食事もして。
そんな楽しい1日はあっという間に過ぎていく。
気がつけばほとんどのアトラクションに乗っていて、太陽は沈み始めていた。
「さぁ、明日は仕事だ。そろそろ帰ろう」
お父さんにそう言われるまで、時間の感覚がなくなっていたくらいだ。
「うん。そうだね」
大満足のあたしは大きくうなづき、2人の間に割って入って歩き出す。
友達に見られたらちょっと恥ずかしい光景だけれど、ここにいれば気にならなかった。
車に戻ってもまだあたしの興奮を覚めなくて、そのままインツタに写真を上げた。
今日1日で一番素敵に取れた写真。
3人と、この遊園地のキャラクターと一緒に撮影したものだ。
もちろん、両親の顔はぼかして投稿する。
《その遊園地、行ったことがあります!》
途端に送られてきたコメントにビックリして瞬きをする。
ハンドルネームはジュンだ。
「またこの子?」
不振に感じながらも、偶然同じタイミングでインツタを開いたのだろうと思った。
あたしは大して気にかけず、スマホをバッグにしまったのだった。
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