ああ、でも…君と別れるのは嫌だなぁ

 別れたんだ。

 来る者は拒まず去る者は追わずの友人が何度目かの破局をしたが、相変わらず傷心とは無縁だ。友人にとって別れは苦ではないようだ。

 そうだ、君と付き合えばいいんだ!

 …え? 冗談か?

 知らなかった? 私、両刀だよ。

 この時にこの友人と縁を切っていれば、現状は何か変わっていたのだろうか。


***


「別れたんだ」


 友人が何度目かの破局をした。しかし、友人が傷付いた様子が見られない。相変わらず傷心とは無縁だ。

 来る者は拒まず去る者は追わずのスタンスを貫く友人は、いつもアッサリと恋人を別れていた。言い寄られて受け入れて、でも思ったのと違うと別れを切り出されれば「はい、そうですか」と手を振る。

 別れが苦ではないんだな。そう告げれば、友人は何かを閃いたようにこう言ったのだ。


「そうだ、君と付き合えばいいんだ!」

「……え? 何かの冗談?」


 私たちは友人だ。そもそも、同性だ。


「知らなかった? 私、両刀だよ」


 知らなかった。


「君となら別れない気がする」


 どこからその自信がくる?


「それに……君と別れるのは、嫌だからなぁ」


 私も、君と別れるのは嫌だよ。うん、嫌だよ。

 この時にこの友人と縁を切っていれば、現状は――友人のベッドで夜を明かし、恋人と同じシャンプーを使って同じ部屋から出勤している今は、何か変わっていたのだろうか。

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