彼女の匂いを飲み込むようにビールを呷る

 微睡みの中で船を漕ぎ始めた彼女の手から、缶カクテルを奪い取る。肩を抱き寄せてこちらの肩に頭を乗せると、穏やかな寝息を立てながら酔い潰れた。

 髪を撫で、ヘアゴム外せば汗の臭いを孕むシャンプーがふわりと香った。

 彼女の髪に顔を寄せて匂いを吸い込む…変態臭いかもしれないが、至福の時間だ。


***


「あった、新商品!」


 白とピンクに飾られた缶を見付けた彼女は、嬉しそうに俺が持つ籠の中にそれを入れた。今日は奮発して、ちょっと良いビールを選んだ。

 彼女は酒に弱い癖に、新しい味の缶カクテルが発売されると必ず買ってしまう。新発売も季節限定も目敏く探し出し、連休前の金曜日の夜は2人でソファーに並んで座り、家飲みをするのが恒例行事だ。

 今夜買って来たのは、新春限定の練乳イチゴチューハイ。アルコール度数3%、ジュースのように甘ったるい酒だったが彼女が酔い潰れるには十分だ。顔は真っ赤になり、目が虚ろになり、いつもよりも陽気になる。


「練乳イチゴ、美味しい! 思ったよりイチゴだー」

「……眠い?」

「……眠くない」


 眠いな。

 微睡みの中で船を漕ぎ始めた彼女の手から、そっと缶カクテルを奪い取る。まだ三分の一ほど残っている缶をテーブルに避難させてから彼女の肩に手を回した。

 肩を抱き寄せてこちらの肩に頭を乗せる。ポンポンと背中を叩けば、安心したように穏やかな顔を見せてあっと言う間に寝息を立てながら酔い潰れた。

 寝入った彼女の頭を撫で、髪を撫でると、髪を結っていたヘアゴムを外す。ふわっと、汗の臭いを孕むシャンプーが香った。

 彼女が愛用する甘い花の香りの中に、彼女本来の体臭が入り混じる。密着しているが故に濃くなるその香りを堪能すべく、彼女の髪に顔を寄せて匂いを吸い込んだ……心臓がどくどくと鼓動して、血の巡りが早くなって身体全体が熱を持った。

 大好きな匂いを思い切り吸い込んだ。これは、酷く興奮する。彼女の匂いを飲み込んでしまおうと、残っていた缶ビールを一気に飲み干した。

 彼女が酔い潰れて眠ってしまってから始まる、秘密の酒盛り。アルコールではなく、大好きな香りに泥酔して寝顔と寝息を肴にする。

 変態臭いかもしれないが、これが俺の家飲みの楽しみであり、至福の時間だ。

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