店先の看板をCLOSEにしてから、夜が始まる

 次は彼女と来てね。そう言った常連の若い子に押し倒された。

 ママが好きなんです。

 私、身体は男よ。

 そんなの関係ない。

 ノンケの一時的な迷いかと思ったが彼の眼差しがあまりにも真剣で…可愛い男の子にこんなにも熱を注がれて、私の中の乙女が拒める訳がない。

 ベストのボタンを外して、熱を受け入れた。


***


 歓楽街の隙間にある小さくても居心地を良くしたカクテルバー。男も女も、1人でフラっと入って好きなカクテルをゆっくりと楽しめるここが、私の城。

 勿論、店内でのしつこいナンパを確認した場合は秒で出禁。


「ママって本当に男?」

「90%は天然よ。ちょっとホルモン入れているぐらいね」

「嘘だ~! 凄い美人なのに」

「あらありがとう~! でもごめんね。私、年上の渋い殿方がタイプなの」

「へー……レッド・アイ、ちょうだい」

「あんたには、可愛い女の子が似合うわよ。甘え上手だけどしっかり者の。次は彼女と一緒に来てね」


 いつも通りの最後の一杯を飲み干して、常連の若い子を見送った。それが先月の話。

 もう誰も来ないかと思った閉店間際の時間帯。あの子がやって来た。若くて可愛い彼に、押し倒された。


「……好きなんです。ママが好きなんです」

「私、身体は男よ」

「そんなの関係ない」


 ノンケの一時的な迷いかしら?

 だってあの子、彼女が欲しいってよく言っていたもの……それなのに。ゆったりとしたソファー席に押し倒され、見上げるあの子の眼差しはあまりにも真剣だった。

 可愛い年下の男の子。本当は甘えん坊な癖に、妙に潔癖で誰にも弱みを見せようとしない完璧主義者。ほどほどに酔いが回った瞬間に見せる本当の顔を知っているのは、私以外に何人いるのだろうか。

 熱い視線が注がれる。カクテルの一杯も口にしていないのに私の身体が火照り始めたのはきっと、私の中の乙女が彼の熱で蕩け始めたからだ。

 こんなの、拒めるはずがない。


「待って」

「ママ……」

「邪魔されたくないから。お店……閉めさせて」


 看板をひっくり返して、ベストのボタンを外して、熱を受け入れた。

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